[波長]

数年前六本木のキャバで働いていた時の話。
従業員の女の子も黒服も割りと仲が良く店もそれなりに忙しかった。
1年程その店に勤め、六本木の違う店に移った。

仲のよい友達が働いていたせいもあり、
辞めてからもたまに店に顔を出しに行っていたのだが
ある時、あまり喋った事のなかった黒服Aが私に
「僕昇進したんですよ」
と言い新しい肩書きの入った名刺をくれた。
あんまり親しくない私に言う程嬉しいんだろうなと思い
それを受け取って家に帰った。

それから半月程たって、
いつもの様に化粧をしている時
マスカラを塗っていて思いっきり眼球を突いてしまった。
普段ならこんなミスしないのに。

目が痛いなあと思いつつも店に出勤する為
地下鉄に乗ると、偶然前の店で一緒だった女の子にあった。
その子は
「知ってますか?A君ね、行方不明なんですよ」
と、言ってきた。
「なんで?」と尋ねると
「週末にサーフィンに行って波にのまれて、まだ見つかっていないって。
店の朝礼でA君の携帯には連絡しないようにって
言われちゃいました」
そんな話を聞いている間に六本木に着いたので別れた。

私は店に行ったが、目の腫れがひどくなり
「お岩さんみたいな顔になってるよ。今日は帰りなよ」
と言われ早退をした。

病院にも行ったが目の腫れは収まらず
それから1週間程店を休んだ。

やることもなくヒマだったので
ベッドの上にずっと居て枕元に置いていたパソコンで
ずっとネットを見ていたり、気が向いたら
Aの事を知っている人に電話をして
「海で行方不明になったんだって」と言う話をした。
それから半月程たっても目の調子は悪かった。
しかしあまり店を休むわけにもいかず
出勤するために地下鉄に乗ると
Aの事を教えてくれた女の子とまた電車で一緒になった。
「A君、あの話した1週間後に遺体で見つかったんですよ」
それを聞き、特に親しくはなかったが、
二十歳にもなっていない自分の身近にいた人間が
亡くなったんだという事実に
(老人や病気の人が亡くなるのとはまた違う感覚)
なんだかいたたまれない気持ちになった。
そんな気持ちを、占い師をしている友達に電話ですると
「それちょっとまずいかも…人呼んでくるから家で待ってて」
と言われ電話を切られた。

続く