[ホテルの怪異]
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俺は開き直り、カラオケを提案した。暗い雰囲気だし彼女も賛成した。
そしてリモコンを手に取ると同時に、風呂場で物音がした。
彼女は窓のことは知らない。俺は一人で風呂場へ向かった。
そして勢いよくドアを開けた瞬間 冷たい空気に包まれた。
また窓が開いていて、外には一瞬だけ顔のような輪郭の影が見えた。
俺は恐怖心をかき消すためにも強く窓を閉め、今度は鍵もかけた。
そして彼女の元に戻り「気のせいだと思う」と告げ、カラオケを始めた。
彼女は震える手で数字を入力すると、送信ボタンを押した。
すると聴いたこともない悲しげな曲が流れ出したので、
「お前なんだよこの曲!」と、強い口調で俺は彼女に言った。
すると怯えながら彼女は「違う!私こんなの入れてない!」と答えた。
俺はリモコンを取り上げ、すぐに演奏を中止した。
今度は彼女に数字を言わせ、俺が入力した。

するとまた同じ曲が流れ始めたのだ・・・。

彼女が泣き出した。俺は演奏を中止するためボタンを押した。が、
演奏が止まらない!どうやっても止まらない!俺は荷物をまとめて
彼女の腕を掴んで「すぐ帰るぞ」と言い、財布を取り出しドアへ行くが
動揺してるため上手く札が入らない。
そうこうしてるうちに延々と流れる演奏がサビに入っていた。

そこで気づいた。知ってる曲なのだ。

そう、ベッドの下から聞こえたあの女性の鼻歌、まさにあの曲だったのだ!
支払いを済ませすぐ車に乗り、国道を逃げるように走った。
そして今でも彼女に黙っている秘密が一つある。
それは国道を走りながらバックミラーをふと見たその時、
後部座席に青白く光る、髪の長い女性が座っていたこと。
その女性は言うまでもなく唇には真っ赤な口紅が塗りたくられていた・・・。

(終わり)


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