[こっちみんな]

去年の秋ぐらいのことなんだが、夕方に仕事の終わった俺は職場から帰宅しようといつもの帰り道を車で走っていた。
国道から右折して交通量の少ない県道をひたすら西に向かってまっすぐ進む。
やがて俺以外の車はいなくなり、だんだん空が薄暗くなってきたのでヘッドライトを点灯した。
すると、約100m先、進行方向の道路の真ん中に何か黒い塊がある。どんどん近づいていくとそこにあったのはこちらに顔を向け目は飛び出し腹から臓物をぶちまけた無惨なぬこの亡骸だった。
『チッ、てめーらぬこはどんだけ車に轢かれたら気が済むんだよ』と思いながらぬこを対向車線寄りに避けようとしたその時、

『フギャ━━━━━━ッ!!!』

とけたたましい鳴き声と共にぬこの死体が車に飛びかかってきた。
『!!!』とっさにハンドルを切ったが既に遅く、ぬこはフロントガラスにベチャァッと張り付き飛び出た目で俺を睨んでいた。情けないことに俺はあまりの恐怖に顔を伏せガタガタ震えていた。
少し落ち着いてきたので恐る恐る顔を上げるとぬこが張り付いていた痕などなく、ぬこもバックミラー越しにそのまま道路に横たわっていた。
『何だったんだ今のは・・・』と独り言をつぶやきながら車を発進しようとしたらなにやら異変に気付いた。
さっきぬこは俺を正面から見据えていたが、今はバックミラーから覗く俺を睨んでいる。すなわち、死んでいるはずなのに顔をこちらに向けているのだ。
もうチビりそうになった俺は脇目もふらずに逃げ帰った。
その夜、就寝中にあのぬこにどこまでも追いかけられるという悪夢を見た。汗びっしょりで飛び起きたらしわがれた老人のような声でかすかに『・・・余計なお世話だ』と聞こえた。
そのあとは特に何もなかったが、たまにぬこが道路で横たわっていたりしたらビクッてするようになっちまった。
ぬこ好の方すまん


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