[炎と氷]
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翌朝、日の出と共に叩き起こされた俺はマサさんと共に道場に入った。
第2の「激しい呼吸法」を終えるとマサさんは俺にパチンコ玉程の大きさの黒い丸薬を飲ませた。
正露丸に良く似た匂いで辛い味のする薬を飲んだ後、第4の呼吸法を行う。
第4の呼吸法を行ずると体温が異常に上がり、心拍も相当早くなる。発汗も物凄い。
しかし、その時の「熱」は異常で、炎の中に放り込まれたかのような熱さだったが、汗は一滴も出なかった。
マサさんは俺に着ている物を全て脱いで、床に横になる様に指示した。
横になると第1の「ゆったりとした呼吸法」を各10秒で行った。
ある程度の停止時間をとらなければ行は進まないが、呼吸のリズムが狂うと失敗し、命に関わると言う事だった。
マサさんは俺の眉間に親指を当て、俺の呼吸に自分の呼吸を合わせた。
やがて、マサさんの親指が触れている眉間の部分と尾?骨の辺りが熱くなり出した。
暫くすると尾?骨のあたりにモゾモゾとした感触が生じ、それは激しくなり、何かが暴れ始めた。
その「暴れる」熱を持った何かは、やがて俺の背骨を這い上がり始めた。
呼吸法で保息している時に、それはググッと少しずつ這い上がってきた。
やがて、それはマサさんが親指を押し付けている眉間の位置まで上ってきた。
それがマサさんの親指に触れた瞬間、俺の背骨を貫いていた熱の固まりはすう〜っと消えていった。
同時に、俺の体温はまた一段と上がり、まるで燃え上がったかのようになった。
しかし、不思議な事に熱を発しているのは首から下だけで、首から上に異常はなかった。
肩で息をしながらマサさんは俺に「茶」を飲ませ、そのまま呼吸を保つように指示した。
俺は呼吸法を続け、やがて意識を失った。

翌朝目覚めた時、体はまだ火照っていたが、嘘の様に熱は引いていた。
昨日と同じように呼吸法を行じた。
第4の呼吸法を行う前に、「絶対に噛むな」と言われて、ベッコウ飴のような黄色い飴で薄く包まれた薬を3粒と100cc程の水を飲まされた。
第4の呼吸法を行ってもその日は体は熱くならなかった。
横になって第一の呼吸法を行っていると、急に悪寒が襲ってきた。
マサさんが「寒いか?」と聞き、俺が目で肯ずると昨日と同じ手順でマサさんの「処置」は始まった。
ただ違ったのは、俺の背骨を這い上がってきたのは、今度は氷のように冷たい何かだった。
その冷たい何かは眉間の位置まで到達すると、前日の「熱」と同様に俺の背骨の中から消え去った。
その後に襲って来たものは、そのまま凍死してしまうのではないかというくらいの寒さだった。
マサさんは前の晩よりも疲労困憊した様子で俺に「茶」を飲ませた。
俺は呼吸法を続けながら意識がなくなるのを待ったが、「落ちる」までかなりの時間を要した。

翌朝目覚めた時、俺の体はそれまで経験した事がないほど軽く感じられた。
第1の呼吸法の要領で呼吸をすると、背骨の中をスースーと冷たい風が通り抜ける様な感覚がした。
そして、頭の中にキーンと耳鳴りとは違った甲高い金属的な「音」が響いていた。
ただ、「音」と言っても、それは耳に聞こえるものではなく、あくまで頭の中に響いているのだ。
「音」は視線を動かしたり、何かを集中して見ると音色や音の強さが変わるようだった。
強く集中すればするほど、音は大きくなった。
俺が面白がって「音」を試していると、マサさんが道場に入ってきて俺に声をかけた。
「これからが本番だ。もう後戻りは出来ない。失敗すれば命に関わる。確率は五分五分。集中してくれ」

続く