[和解]
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住職が例として上げた宗教団体は、そっち方面に疎い俺でも知っている名前がいくつも含まれていた。
☆☆ムや阿★★、☆☆A、★★★光、etc・・・
住職の話によると、以前マサさんにも言われたように、『行』には、一定の法則に従った身体や精神の操作技法と言う側面があるらしい。
あくまで「技術」だから、法則に則った「行」であれば、生理的反応として、ある程度の「験」を得ることは比較的容易らしい。
住職は俺に蝋燭の炎を回転させたり細長く伸ばしたり、リズミカルに伸び縮みさせるといった「念力」を見せてくれた。
住職曰く「やり方さえ理解できれば、子供でも3日で出来るようになる宴会芸」だそうだ。
「霊感」を身に付け、人には見えないもの(霊の類)が見えるようになると言った程度なら誰でも比較的短期間で身に付くそうだ。
また、そういったレベルなら「修行」などしなくても、何かの拍子に目覚めてしまう事も少なくないということだ。
ただ、先天的にそういった力や素養を持っている人は、「本能」として対処しているのでさほど問題はないが、「行」は非常に危険なものらしい。
「験」ないし「力」は、霊魂や魍魎にとっては「暗闇の中の篝火」のようなもので、そういった「悪いもの」を引き寄せるのだそうだ。
素養のない者が「行」を行い、「験」や「力」を得ることは、無防備のまま「悪いもの」に身を晒すことに他ならない。
持つべきでない「力」に翻弄され、「悪いもの」に取り込まれた状態を住職は「魔境」と称しているようだ。
「魔境」に陥るのを避け、そこから脱するには「功徳」を積み、より高い「行」を積む必要があるらしい。
その為には「出家でもするしかないだろうな」ということだ。
俺がマサさんにされた事、今の俺の状態は,言わば「エンジンのリミッターを外してフルスペックにした状態」らしい。
リミッターで3000回転しか回せなかったものをレッドゾーンまで回るようにしたが、オイルもガソリンも入っていない状態ということだ。
解決策は「当面、マサさんに教えられた『行』を続けること、金銭やその他の現世的な欲望を原動力とした行動は慎むこと」らしい。
新興宗教団体の『行』が、多くの場合『魔境』しか産まないのは、『現世利益』を原動力にしてしまうことが大きな原因らしい。
『欲』を原動力とした行動は『徳』を減らすものらしい。
逆に利他的な動機に基づいた行動は『功徳』を増やす。
そのような行動を『布施』と言うそうだ。
「だからといって、教祖や坊主に大金を『お布施』したからって功徳なんぞ積めんよw」とは住職の弁。
住職はマサさんを「面白い男だ。他人にこれだけの『験』を施せる力があれば、一代でデカイ教団の一つも興せるだろうに。
『行』への取り組みは普通の宗教家のそれではない。目の黒いうちに是非一度会ってみたいものだ」と評した。
戻った俺は、マサさんに習った「修行」を再開し始めた。
住職の指摘の通り、それは全く以って「宗教的」ではないものだったが・・・
俺とアリサは部屋の鍵を返しに、きょうこママの店を営業時間の終わり近くに訪れた。
アリサとの共同生活が終ってしまうのは、正直、少し寂しくもあった。
席に座ってきょうこママに事の顛末を話す。
きょうこママは黙って頷きながら俺とアリサの話を聞く。
アリサの元同僚のニューハーフのお姉ちゃん達も興味深そうに聞いている。
俺とアリサが話し終わると、きょうこママが口を開いた。
「面白い話だった。だ・け・ど、アタシの聞きたいのはそんな話じゃないんだよね〜」
他のお姉ちゃん達も期待に満ちた目でウンウン頷く。
「アンタ達、あれだけ長〜い時間一緒に居たんだから、何かあっただろ?そこの所を包み隠さず詳しく話しなさい」
「何も話すことはありません」
「えー、つまんない〜。話せ、全部吐け」お姉ちゃんの一人が煽る。
人の顔を指で突っつくな!
俺はアリサの方を見て「何もなかったよな!」と言い、アリサも頷いた。
「本っ当に何もなかったのかい?呆れたね。タマは付いてるのかい、このヘタレ!」
お姉ちゃん達が同調し、いつの間にか店内ヘタレコールとブーイングの嵐。他のボックスの客も混ざってるし・・・
「アリサ何とか言ってくれ!」
「・・・ヘ・タ・レ」
乱痴気騒ぎは朝まで続いた。
それ以降、アリサは俺の最も親しい女友達の一人になった。
終わり