[登れない階段]

昔、警備員をしていた時の事。

俺は警備会社に入社早々、ある区域の機械警備の担当をする事となった。
その日、昼間は先輩社員と警備対象となる数十もの建物の場所を車で巡回確認し、
夜間は待機所で警報信号に備える事になった。
その区域には機械警備と別に、夜間巡回警備をする物件も3ケ所あり、
物件の一つにAという元病院だった建物があった。
先輩曰くそこは「出る」病院らしく、霊感に強い人は絶対近づきたくないと言う場所だったらしい。
俺は確かにそれまで何度か幽霊を見たことはあるが、普段は霊感なんて別に感じない人間だったので、
ありがちな話だ位にしか思わなかったし、実際新入社員で覚える事が多くそれどころでも無かった。
その病院の巡回は夜間2回、午後11時ごろと午前3時ごろの予定。
他の2件の物件の巡回を終え、病院の1回目の巡回を予定通り行うこととなった。
深い山中にあるその地域の中心に、比較的大きな川が流れておりその川沿いに病院はあった。
以前、水は霊を呼び込むと言う話(リングの井戸みたいな)を聞いた事があり、妙に納得できる部分があった。
新病院への移転の為、80年代後半に廃墟となった病院。地上2階地下1階、長さ約100m×30m。
解体しない理由はその解体費用に問題があったそうだが、
以前解体しようとしたときに何か問題があったという、これまた在りがちな噂があると先輩は言っていた。
病院は高さ3m位のバリケードで囲まれており、
入り口はアコーディオン式で南京錠を開けて敷地内に入る。
例によって落書きや割れた窓ガラス、自分の身長とかわらない生い茂る雑草・・・
病院内の巡回経路が決まっていて、斜面に面した建物であることから屋外にある螺旋階段を上り、
2階入口から内部へ入ることになっていた。

2階の古びた南京錠を開け中へと入ると、懐中電灯で照らす細長い建物の内部に無数の病室が確認できる。
建物内部は生暖かいような、寒気がするような言葉では言い表しにくい空間・・・
当然ベットなどは無いにせよ、1986年の週刊少年ジャンプがあったり今だいまだ生活感が残っている。
先輩によれば、そうやって夜中に懐中電灯で巡回警備する事自体が事情を知らない人からすると、
建物で妙な光を見たとかいう怪談になってるらしく、そういう意味では笑える。
巡回経路順に、スロープ(車椅子や足の不自由な人用の坂道)を通って1階へ降り、
同じように病室やナースセンターを確認していく。何も異常は無い。
地下に降りるには階段を使わないといけないので、病院に入る前に建物配置図で確認した階段のほうに
行こうとするが、「地下はいいよ、どうせ何も無いし・・」と言うので、内部巡回は切り上げ。
本来は当然回らないといけないが、この先輩かなりビビリだったらしくて。
で、内部を出て外周も確認。異常なく巡回終了。
そこから待機所へと移動し、車中で遅い夕飯をとり緊急警報と2回目の病院巡回に備えることになった。
午前1時ごろ、先輩は一日中俺を指導していた事もあり疲れて寝てしまった。
俺も最初は配置図で物件内部の確認をしていたのだが、やはり疲れてうとうとしてきた。
待機中とはいえ仮眠は許されている事もあり、
1時間位ならと思い目覚しを2時30分にかけて寝る事にした・・・

・・・・・
・・・薄暗い・・・
場所が良く分からない・・・
何か、階段の前にいるようだ・・・階段・・・?
どこかの建物の階段の一番下らしいが、階段の踊り場にある窓からかすかに光がさしている・・・
その場所から別の部屋につながってる様だが、なぜか行く気がしない・・・
とにかく登らないと、ここにいてはいけない、そんな気がした・・・
足を踏み出し階段を上ろうとした、が出来ない・・?
何故だろう、足が重い・・・
よく見ると足元にツタのようなものが絡んでいる・・それが徐々に自分の体へと絡んでいく・・・

続く