[転生]
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翌日の昼頃、俺達は寺の墓地にいた。 
林家の墓所だった所で住職が経を上げて、墓地での儀式は思ったより簡単に終わった。 
本堂に戻ると其処には縄の囲いと護摩壇が用意されていた。 
これからが本番のようだ。 
護摩が焚かれ、住職が経を唱えながら火に護摩木を加える。 
炎は天井まで焦がすのではないかと言うほど高く上った。 
住職の読経は続く。 
ぞわっと異様な気配を感じてマサさんを挟んだ位置にいるジュリーを見た。 
汗をびっしょりかいてぶるぶる震えている。 
美しく整っていた顔は悪鬼の形相だ。 
遂に彼女の中の「獣」が目を覚ましたのだ。 
彼女は奇声を上げて立ち上がった。 
マサさんは彼女と同時に立ち上がると、彼女の背中をパシーンと大きな音を立てて何度も平手打ちした。 
そして、落雷のような大きな怒声で、日本語で叫んだ。 
「林幸恵、姜時憲は姜相憲がお前の敵を取って殺したぞ。 
姜種憲を除いて姜一族は死に絶えた! 
お前の恨み、善太郎の恨みは晴らされたぞ!」 
マサさんの言葉を聴いて俺はギョッとした。 
マサさんの言葉が終った瞬間、ジュリー=姜種憲はその場に崩れ落ち、意識を失った。 
後日マサさんに聞いた話によれば、マサさんが韓国から日本に戻った後、姜相憲は姜時憲を刺殺し、同じ銃剣で首を突いて自殺した。 
姜時憲は生きていたのだ。 
時憲の居場所を相憲に教えたのはマサさんだった。 
そして、相憲に居場所を教えるようにマサさんに頼んだのは、他ならぬ時憲本人だった。 
この話には更に裏がある。 
杉村家に戻った俺は、風呂上りの火照った体を縁側で覚ましていた。 
すると、杉村氏が俺に話しかけてきた。 
「大変だったようですね。ジュリーさん、あの方、昨日も調子悪かったみたいですものね」 
「・・・・・・・」 
「あなたは日本の方なんですよね。他は韓国の方たち。 
どういう縁なんでしょうねえ? 
日本で半世紀も無縁仏だった家の供養をする為に韓国の方たちがやってくる・・・ 
・・・特に、ジュリーさんとは、家の者もそうらしいのですが、何か深い縁を感じます。 
昨日も胸を締め付けるような感じが・・・娘に良く似ているからですかねえw」 
「杉村さんは輪廻転生って信じます? 
私は信じている方なんですけど、縁を感じるということは、案外、前世では近い関係にあったのかもしれませんよ。 
こうしてお会いしたのも縁あってのことでしょうし・・・」 
「それと、付かぬ事をお尋ねしますが、ご家族に変った形の痣やシミのある方は居ませんか?三角形とかの奴」 
「私の腰のところに三角形の痣があります。 
子供の頃は随分気にしたものです。 
今はレーザーで消せるらしいけど、長年そのままだったし、今更どうこうするつもりはないですけどね。 
それが何か?」 
「いや、何となく。そんな話をちょっと聞いたものでね」 
「ああ、住職さん?」 
「はい」