[秋のある日]
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祠だった。いつの時代のものかわからないお札が、扉を閉ざしていた。正確には既にそのお札はキレイサッパリに焼き切られていた。
つまりこの祠の扉を封していた呪物的代物が無効化していたのだ。
頼んでもないのに勝手に扉が開いていく。ご丁寧にも自動で開く扉の所為で祠の中身が明らかになる。中を見てまた驚いた。
手前で横たわってる白骨のモノらしき頭だ。それも原型を留めている。つまり、生前のままだった。変色することなく今でも血が通っているように。
人間の頭部に目が向う。何か違和感がある。でも何がおかしいかわからない。全てが異常だった。
ライトの光が祠の奥を照らす。裏にはまだ奥があるようだった。その先は奈落に続く気がした。

『引き返すなら今だ』そう感じた僕は「アッシー戻ろう」と言い、急いで砂浜に引き返した。入った時とは比べものにならない早さで入り口付近まで来た。
日が射してる。逆光で見にくいが、洞窟の出口に人らしきモノが転がっている。一瞬身を退いた。
しかし、それがすぐに入るとき見かけた人形だという事に気が付く。通り過ぎる際、ワイフを蹴飛ばそうとして驚いた。
頭が無い。入るときには付いていたのに。明らかに時間の進みがおかしいが時計なんて見ている暇は無い。
車に戻り急いで席についた。「えっ?」アッシーの顔色が冷めて固まっている。アッシーの目線の先を見るとダッチワイフの頭がブレーキペダルの横から顔を覗かせている。
少しでも早くその場から離れたい一心で、ワイフの顔を掴みとり窓から投げ出した。盗難に遭わないよう貴重品は予め車に置いていたので、すぐに車は走りだした。
時計を見ると午前七時過ぎだった。

八時間強あの洞窟に居たことになる。でも自身の体感では長くて一時間くらいだ。なんとも言えない気分だった。
車を走らせて一時間、落ち着いてきたらお腹が空いたのを感じて、『やっぱり九時間近くあそこに居たんだな』っと実感した。昨日買っておいたツマミを探す。
アッシーにどこに置いたか聞いたら「昨日食べちゃった」と申し訳無さそうに答えてくれた。彼の一言で『日常に帰ってきた。』と心底思った。
帰り道にコンビニがあったので食物と飲み物を買った。車の中で食事してるとアッシーが「頭あったよね・・・人の」思わぬ話題を振られて僕は「・・・うん」とだけ答えた。
「あの生首さ、テレビの時代劇とかで武士が切腹して介錯してもらった後に凄いそっくりだった。あの髪の感じとか。」
その話を聞いて違和感の正体がわかった。少し前に借りたビデオ、[なんたら怪奇ファイル]の首無しライダーの回で、首だけのシーンを見ていた。
今回偶然にも見てしまった生首とは違いがあった。髪型だ。人によって髪型なんて多種多様だけど、その生首は頭頂部を剃っていて、後頭部から首にかけて髪が垂れ下がってた。
つまり時代が違った。現在にあるべきモノではない。いや、あるはずなかった。異常な事態。でも、考えるのはやめた。
何故そんなモノが存在していたかなんてわからない。調べに行こうとも思わない。知らないままでいいと思った。
ただ、その秋に人が触れるべきでない領域がこの世界にあることを知った。


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