[門の中]

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正直に言うと、俺はリナさんにちょっと憧れていた。
当時俺がハマっていたアニメの話なんかをしても、知らないなりに
「これはこういうことなのよ」なんて知恵を付けてくれたりした。
無知な俺は彼女がオカルトが好きなんだと思っていたが、
今考えるとちょっと違ったのかも知れない。
こんな地味なリナさんの彼氏が、ヤンキーで知られたS先輩でなければ、
俺ももう少し積極的に彼女と関われたかも知れない。
だが、リナさんにとっての俺は、後輩の一人でしかなかっただろう。

陽が傾き始めて、辺りの空気が黄色っぽくなっていた。
みんなは思い思いに門の中を覗いていたが、男の姿なんかなかった。
誰とも無く「もう帰ろう」と言い始め、ホッとした俺もその尻馬に
乗った。
工場沿いの丁字路を県道側へ戻り始めてふと見ると、リナさんだけが
引き返さず、まだ工場の方を見ていた。
「先輩、何か見えるんスか?」
彼女の所まで言ってこっそり聞くと、リナさんは首を振った。
「あれは本当のヒトだよね?」
ちらりと目配せした彼女の視線の先を追うと、
工場の敷地内の駐車スペースの外れの木の下に、事務服姿の女がいた。
痩せて顔色の悪い女は、一心に何かを見つめている。
薄暗くなってきたとは言え、俺にもリナさんと全く同じ物が見えている。
幽霊では無いだろう。
ただ、女が見ている物を考えた時、俺は少し寒くなった。
女は、男の霊が立つと言う辺りを見ている。
「帰りましょう。」
俺はリナさんを促した。彼女は「うん」と応えたが、
歩きながら何度か振り返っていた様だった。

S先輩がバイクの事故で亡くなったと聞いたのは、年が明けてからだった。
3年はほとんど学校に来なくなっていた時期で、その頃には俺も、
リナさんとは疎遠になっていた。
夕方、横道から出てきた先輩のバイクがトラックに突っ込んで、
ほとんど即死だったらしい。
現場がどこか聞いて、俺は嫌な気持ちになった。
それは俺達が工場の裏へ向かった丁字路が、県道に抜けている部分だった。
俺はリナさんが先輩に何か話したのかも知れないと思ったが、
確認は出来無かった。
卒業式で最後に姿を見るまで、ふたつきばかりの間に、何回か廊下で
すれ違ったが、俺は小さく頭を下げるのが精一杯だった。
リナさんは関西の大学に進んだ筈だが、今どうしているのかも知らない。
冷たいようだが、確かめることが少し怖かった。

車は駅に向かい、県道に出た。
話を聞き終わりしゅんとしていた従妹は、不意に元気な声を上げた。
「ほら、あれ!あそこの搬入口に出るんだって!」
従妹の指し示す方角には、真新しい、大きな商業ビルが立っていた。
俺は軽い目眩がした。
そこは以前、部品工場があった場所だ。

ずっと黙っていた、俺とさして年の違わない兄の方が言った。
「俺の学校じゃ、女の霊が何かを睨んでるって話だったよ。」
俺と従妹は、ミラー越しに兄の顔を見た。

…以上です。


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