[騒音]

暇だしネタも少ないようなので長文&スレ違いをわきまえながらも書いてみる。


 西東京のアパートに引っ越した時のことです。2DK、2階建て軽
鉄骨の築2年、ごく普通の物件です。私の部屋は3戸ある2階の左端
でした。
当時、私は独身でフリーの仕事をしており打ち合わせなどで外に出る以外は部屋の中に居ることが多い生活をしていました。
ところで、30を過ぎて独身、収入の安定しないフリーの仕事をして
いる人間が賃貸件を借りることは意外と苦労します。傍目からは勤
めもせず日々ブラブラしている社会不適合者に映るのかもしれませ
ん。
実際そのアパートに入居する時も大家の対応は偏見に満ちたも
のでした。

ですから私は引っ越しのたびに近隣の入居者には菓子折
をもって、仕事の関係上部屋にいることが多い旨を伝え出来る限り
丁寧に挨拶をするように心がけています。
 さて、今回も引っ越しそうそうに隣と真下の部屋に挨拶に行きま
した。
隣は旦那さんがガテン系の仕事、奥さんも共働きという若夫
婦でした。

愛想がいいとも悪いとも言えないごく普通の隣人です。
ところが真下の部屋には何度行っても中から人が出てきません。
はじめは不在なのかとも思っていましたが、どうも様子が違います。
特に安普請という訳でもないのですが、壁も薄く隣のテレビの音が漏れ聞こえるような建物です。

当然、下の部屋の足音などの生活音
も隣ほどではないにしろ聞こえます。しかし明らかに居るであろう
タイミングで行っても呼び鈴に反応はありません。ドア越しにこち
らを窺っている気配は感じるのですが…。

 ただの不在なら私も「もうイイか」となるのですが、明らかな居
留守を使われては少々意地になります。大家曰く「旦那は勤め人、
奥さんは専業主婦のキチンとした若いご夫婦」とのこと。

世間的に
キチンとした人の対応がこれかよ、と思いつつその後も何度か足を
運びました。
 ようやくそのドアが開いたのは私が引っ越してから既に一週間以
上過ぎた日曜でした。出てきたのは旦那のほうで、きっと偏屈な野
郎に違いないという予想に反し、物腰の柔らかな気弱そうな感じの
人でした。

挨拶を済ませ帰ろうとした時、DKから繋がる奥の部屋
の暗がりから様子を窺っている奥さんに気付きました。小太りで和
田明子風ショートカット、お世辞にも美人妻といえる外見ではあり
ません。
地味なエプロンを付けた彼女は胸に生後まもないであろう
赤ん坊を抱いていました。

私の会釈には僅かに反応しましたが視線
をあわせようとはせず、うつむき加減のままで、その表情は読みと
れません。
ひどく人見知りで、子供も産んだばかり、だから神経質に旦那以外の訪問者にはドアを開けない。

私は若干の不気味さを感
じながらも、これまでの彼女の対応をそういう風に理解、納得し部
屋に戻りました。そうして新しい部屋での生活は静かに始まったの
です…

続く