[東側の人影]
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四階に着き真ん中寄りにある我が家へと向かう。
反対側にはまたしても人影。

人影も同じように真ん中に向かってくる。
東側は階段の電灯が明滅している以外は全て切れているから
人影の顔が見えずどこの住民かわからなかった。
我が家の前まできて鉄?でできた重い扉を開く
閉める時に少しだけ顔を出して東側を見ると同じように先程の人影が扉を開いていた。

最後まで顔は見えなかった。

またある日、今度は近くの友達の家で晩御飯をご馳走になって
帰る頃には暗くなっていた。

西端から昇っているとまたしても東端に人影。
三階に上がった時にポケットに入れていたキーホルダーを
落としてしまいそれを拾って顔を上げた。
人影がこっちを見ている。ように見えた。
気持ち悪いな、と思って急いで四階に上がった。

東端に人影。
なんだかすごい嫌な感じが全身を駆け巡った。

このままだとまた同じように真ん中に向かって歩くことになるので
五階まで上がってやり過ごそう、と子供ながらの現状打開を試みた。

五階に上がる階段を昇りながら五階は全戸退去していることを思い出した。
五階に着く、電灯は全て消えている。


いる。同じ人影が。
僕は固まってしまった。
経験したことの無い恐怖感に支配され動くことが出来なかった。

東端の人影は微動だにしない。こちらを見ている、ように見えた。
我に返った僕はパニックになり泣きながら家まで全速力で走った。
家の扉を開く瞬間、視界の端で扉が開くのが見えた気がした。

泣き叫びながら帰ってきた息子を見て父親はどうした、と。
変な、人が おばけ 怖い!そんなことを喚きちらす僕。

今のご時世なら不審者、子供を狙う変質者かと心配するのだろうが
何言っとんねん、このアホは と言い放った父親に少しだけ殺意を覚えた。

以来、引越しまで端の階段は使わなくなった。
真ん中の階段を使うと人影は現れなかったから。


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