[井戸の中]
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家に入り、いつも通り俺らが撮ってきたビデオを見た。
大人達は宴会をしており、すっかり酔っ払ってほとんどが寝ていたので、
行ってきた3人と、下戸な従姉妹の叔父さんの4人だけで見た。

井戸までの道は何もなかった。
しかし井戸を遠くから撮ってるところから、異常を感じた。
井戸がぼんやり光っているように見えた。明かりなんてなかったのに。
笑いながら見ていた俺らだったが、言葉を失った。カメラはそのまま井戸に近づいていく。
井戸は光っている訳ではなく、何か白い“もや”が掛かっているようだった。

俺は焦った。
このカメラは、この後井戸の中を撮影している。
そこに何が映ってるかなんて、考えたくもなく、見たくもなかった。
でも、目をそらすことができなかった。俺らは凝視していた。

いつもは何も映ってない。一時停止してじっくり見るくらい余裕がある。
でもその年は違った。絶対に何かいる。
カメラが井戸の前まで来た。そして、中を・・・
というところで、叔父さんがビデオを止めた。そしてこう言った。
「これはここまで。これ以上は見たらいかん。いいな?」

異論を唱えるものなんて居なかった。
そのビデオテープは翌日、叔父さんがお寺に持って行った。
お祓いして、お寺に預けてきたらしい。

俺らは安心して、怖かったな〜よく無事に戻って来れたな〜、なんて話していた。
帰り道もずっと手を繋いでたからね〜、なんて俺が言うと、従姉妹はこんなことを言った。
「え?帰り道は<俺>君とは手を繋いでないよね?」

俺は震え上がった。そして思い出した。
帰り道、従姉妹は右手に懐中電灯を持っていた事を。
でも、俺は確かに手を繋いでいた。誰かと。

それ以来、肝試しは中止になった。


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