[井戸の中]

20年くらい前、俺が体験した話。
当時小学生だった俺は、夏休みになると田舎のばあちゃんのところに遊びに行っていた。
ばあちゃんの家の側にはそれほど有名ではない城があって、
夜になると俺や兄貴はよく肝試しに行っていた。

肝試しのコースは、家から出て城に行き、正門を通って城の中庭にある井戸まで行き、
裏門を通って家まで帰ってくる、というコース。
当然夜なので城の中には入れないが、正門と裏門は常に開いていた。
今考えると、井戸なんてやばいものの所までよく行ったと思う。
映画「リング」とか見た今は絶対に行けない。

その日、例年通り肝試しに行くことになった。
メンバーは俺と兄貴と従姉妹のお姉さんの3人。
これも毎年やってることだが、肝試し中は、ずっとビデオカメラで撮影している。
カメラ係りは俺。VHSの大きなビデオカメラだが、その重みが逆に落ち着く。
もちろんレンズを覗きながら歩くのは危ないから、ずっと前方を向けて歩いてるだけだったが。

暗い夜道を懐中電灯一本の明かりを頼りに進む。
俺と兄貴は毎年行ってることもあり、あまり恐怖心はなかったが、
その年初参加の従姉はすっかり怖がっていた。
なので、従姉を間に挟み、3人で手を繋いで歩いていった。

特に何もなく、井戸まで到着。
井戸には落下防止のため蓋がしてあったが、これがガラスの蓋で、中が見えるようになっている。
さすがに俺らもこの井戸を覗き込む勇気はなく、毎年やってる通り、
カメラを井戸の底に向けてしばらく撮影し(当然レンズは覗かない)、
裏門を通って帰ることにした。帰り道も行きと同じように、お姉さんの右に俺、
左に兄貴が立ち、手を繋いで帰っていった。

やがて家に到着。何もなかった。
・・・と思っていた。

続く