[暗い海]

小学生の頃、夏休みに家族で旅館に泊まりにいった。
日程は3泊4日で、すぐ近くに海がある場所だった。
俺はその間海ばっかり行ってた。水泳習ってたし、
もう5年生だったから、親も俺が一人で行く事には、特に文句を言わなかった。
ずっと一人で泳ぐのはちょっと寂しいものもあったけどね。

何日目だったかな。夕方、日が沈む直前まで泳いでた。
で、そろそろ帰ろうと思ったら、海から見えるはずの旅館がない。
本当に、建物がごそっと消えていたんだ。
なんだか嫌な予感のまま、荷物を持って旅館へと戻った。
場所は間違えるはずもない。何回も往復しているのだから。

旅館があった場所は、もはや残骸と化したグチャグチャの建物。

木片や石がそこらじゅうに散らばっていた。
俺は最初、何が起きたか全くわからなかった。
そして、ふと、あるおかしなことに気付いた。

海からここに戻ってくる間、誰かとすれ違ったっけ?
否。
そして、こんな状況、こんな状態の建物の周りに・・・
それどころか、近くの道に人一人居ない。
車も走っていない。
誰もいない。

「!!!!!!!!!!!!!!!」

意味不明の恐怖で高鳴る心臓。
荷物を手に取ると、一直線に海まで駆け出した。
周りはもう暗い。何度も転びそうになった。
昔から、変に冷静な子供だった俺。
あの場所に留まるよりかは、
開けた場所に行ったほうがいいと判断したのだ。

本気で走ったため、海に着いたときは、本気で息が切れていた。
両膝に手を当て、息を整える。

何で何も無い?今まで俺が居た場所は?
父は?母は?これからどうすればいいの?

色々な事を考えながら、何気なく後ろを振り向いた。
真っ黒な海の中が、明るく煌くのが見えた。
旅館の光が反射していた。
もういちど振り向くと、自分が泊まっていた旅館があった。

(よかった!)

安心が一気に押し寄せてきたと同時に、
後ろの真っ黒い海が、騒ぎ始めた。

続く