[白い女の顔]
友達三人で民宿に泊まった時の話し。 
湿気くさい畳みに古い赤色のテレビ、種類は解らないが鳥の剥製が置いてある、 
まぁ素泊まり4200円って値段にぴったりといった具合の部屋だった。 
夜になると周囲の店はさっさと閉まってしまい、壊滅的にすることがなく 
部屋でビールを飲んだら一時頃までテレビを眺め、雑談の後、電気を消して寝ることに。 
それからずいぶん経ったが、どうも堅い枕が気になって寝付けず、ぼんやり横になっていた。 
私を真ん中に両隣りの友達は二人とも寝た気配がする。 
仕方なくうとうと天井を眺めていたら、遠くから徐々に耳鳴りがやってきた。 
金縛りの経験はあったので、あぁ家の外では初めてかも、なんて考えてたらジーンと固まってしまった。 
早く自由になろうと手の指先と、足先に神経を集中して、動けー動けーと念じていたら 
白いものが視界を掠めた。もう一瞬でゾっと鳥肌がたった。 
その白いものはつー、つーっと、左右に振れて、視界に出たり入ったり、 
インベーダーゲームみたく段々と迫ってくるイメージ。 
おいおいおい…なんの真似だよと薄目でみてたら、近付いてくるのではなく 
それが大きくなっている事に気付いた。形になっていくといか。 
それが能面というか、白い女の顔だと解ってしまった途端 
無理だ!これは嫌だ!って、もう目は開けられなかった。 
金縛りを解くより、ただ息を殺して自分の存在を消すのに必死だった。 
とにかくスルーしてほしい一心で。と言っても青筋たつほど力んでしまっていたと思う。 
その内ピーンと鳴っていた耳鳴りが急に、ブオンブオンとすごい圧力を感じる 
ものに変わって体がずんっ、と重たくなった。 
ふぁっと目を開けてしまったら、荒川静香に似たデカイ面のような顔が 
畳一畳くらいの大きさで私の真上にじっと止まっていた。 
全体が白が濁っている感じでとにかくデカかった。 
私はなぜだかずごい速さで瞬きをしていた。 
とても直視できないけれど、全く目も反らせない心情というか 
目の前の光景に圧倒され大混乱していたのだと思う。 
一際暗く、闇の掛かったような目。そう認識してしまったら 
にんまり口がコマ送りで「う」の発音の形に変わっていった。 
こいつの声なんて絶対聞きたくない!あまりに恐ろしい! 
迫り来る恐怖に、心の中で声にならない叫び声を上げそうになったその時。