[新聞屋]

叔母さんから聞いた話。
何年か前に、法事で久々に叔母さんの家族や親戚連中と会って皆で酒飲
んでたんだけど、どういう流れか忘れちゃったがしつこい勧誘の電話の
話題になってね。どんだけ悪質でムカツク勧誘を経験したかって自慢話
みたくなったんだよね。
未だ携帯も普及してなくて、着信番号表示のサービスも無い時代だった
から、いとこ姉妹の1人が、友達か勧誘か分からなくて電話に出るのが
イヤになったとかこぼしてた時にオレが使った撃退法を披露したんだよ。
それは、勧誘電話にある程度話を合わせておいて、相手が乗ってきたら
やっぱり止めますってバッサリ断る。その間10分くらい話に興味が有る
振りしててバッサリね。これは相手もがっくりくるだろ。当然勧誘の
ヤツはエキサイトするから、興奮してぎゃあぎゃあ言い始めたら
「文句が有ったら電話じゃなく家まで来い」って言ってやるんだ。
で、マジで家まで来やがったら速攻で110番してやる、と。実際に不動産
の店からのしつこい勧誘で新築しませんか?ってのに腹が立ってたときに
オレがやったんだよ。ま、そん時には勧誘のヤツは来なかったけど、来たら
本当に110番してやろうって思ってた。
結構親戚連中には受けて、みんな爆笑してたんだけど叔母さんが言うんだよ。
『T(オレの事)ちゃん。本当に来なくて良かったよ・・・』って。

叔母さんが昔住んでたアパートの玄関のドアには(今じゃ殆ど姿を消して
しまってるけど)新聞受けが付いてたのね。オレが小学校の頃、確かに
見た記憶が有るから30年くらい前かな。その頃の高級なタイプはドアの
内側にボックスが付いててボックスの中に新聞とかが溜まるんだけど、
叔母さんの家に付いてるのは単純なタイプで郵便や新聞を外から
突っ込むとドアの前にポトンと落ちるヤツ。

ある日のこと。お昼のワイドショウ見てた叔母さんはかかって来た電話に
出たんだけど、これが新聞屋からの勧誘で、しつこいったらなかったらしい。
常套句のセリフ『結構です』とか『間に合ってます』とか言うと
「何で結構なんですか?」とか「間に合ってるかどうか分からないでしょう」
と来る。叔母さんを始めオレのオフクロの家系は伝統的に勝気で気が強い女
が多い。「電話じゃ何ですから、お宅まで」と言う新聞屋に『来れる物なら
来て見やがれ!』風な勢いでカッとして電話を叩き切ったらしいんだよ。
いつもならそのままTVに戻るんだけど、その時は妙に引っ掛かる気持ちが
有ったらしく(本当に来たら面倒だな)って思ったらしい。
で、TVの前に有ったA新聞を、新聞受けに入れておこうと考えた。新聞屋
が来てもライバル新聞を見れば諦めるだろうって。
新聞を持って玄関に立つと目の前で“ピンポン”ってブザーが鳴った。
冗談抜きで飛び上る程ドキっとしたらしい。
いくら気が強いって言っても女だし、思いがけないタイミング
の良さ(悪さ?)に体が痺れてしまって黙ってドアを見てた。
“ピンポン”“ピンポン”“ピンポン”“ピンポン”・・・・・。
ブザーがずっと鳴り続けてるんだって。しばらくしたらブザーが鳴り止んだ。

と思った瞬間。
例の新聞受けがパタンと開いて指がニョキっと出て来た。
片手の指が4本、バタバタ閉じたり開いたりしてる。何かドアの向うの人に
気付かせようってしてる様だったって。こっち見ろって感じで。
叔母さんが固まったまま見てるとそのうち4本指がスッと新聞受けから消えた。
ほっとするとすぐさま人差し指が1本だけ差し込まれて来て叔母さんの方を
ジッと指差してるんだって。

これには親戚一同、ぎょえーってなったんだよね。マジかよ〜信じらねぇ新聞屋
じゃねえか。
そしたら叔母さん『止めれば良かったんだけどさ』って言うんだ。
本当に後悔してるって。
叔母さん、新聞受けを手前に引いて覗いたんだって。もう帰ったかなってね。
そしたら目の前に男の口が有ったんだって。ニカって笑った男の口が。


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