[白い顔]

去年の8月の出来事。
朝7時頃、私が部屋から出ると、茶の間に弟がいた。
私の姿を見て、なぜか不思議そうな顔をしている。

「なんだよ」

「あれ?姉ちゃん玄関にいなかった?」

何を寝ぼけているんだこいつは。私は今初めて部屋の外に出たのに。
それを伝えると、弟は首を傾げた。

「玄関に向かって歩いてきたら、真っ白な顔が見えたから、姉ちゃんかと思った」

ちなみにこの時家に居たのは私と弟の二人だけ。
気味悪さに顔をしかめた私に向かって、弟は再び口を開いた。

「…よく考えたらあの顔、顔から下がなかった」

弟が顔を見た場所を確認したが、見間違えそうなものはなかった。
この日、弟が見たモノが幻覚の類いではなかったのだと、私はのちに知ることなる。

次の日の深夜。
私は自室で、泊まりに来た友人と二人でのんびり過ごしていた。

涼む道具が扇風機しかなかったので、窓を開け、網戸を引く。
風が生ぬるい。

なんのとりとめも無い世間話から始まった会話は時間が経つにつれ、深い話になり盛りあがった。


が、そのさなか、私の目がふいに窓を見た。

理由はわからない。
気付いたら見ていたのだ。

目を向けた先には、網戸と、その向こう側に広がる闇。そして中心に浮かぶ、女の白い顔。


次の話

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