[鏡の中のあいつ]
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着信:200X年10月7日11時14分 
もう四日目だぞ!いい加減メールに気付いてもいい頃だ。 
僕がどんな想いで過ごしているのが判らないのか! 
まさか・・とうとう僕の身体を昇り始めたこいつが、君に目を付けるのを恐れて? 
それとも、狂人には関わりたくないとでも思っているのか? 
もういい。君がそんな奴だったとは思わなかった。 
見損なったよ。 
さよならだ。 
着信:200X年10月8日 9時23分 
すまん。昨日は取り乱していた。 
ただ、それだけ僕がまいっていることを判ってほしい。 
狂ってなんかいないんだ。 
僕は愚か者だよ。こんなことになるなら、初期段階で警察か 
大学の研究機関でも訪れるべきだったんだ。 
けど、もう遅い。 
このことを知るのは君だけだ。 
家族に知らせなかったのは、危険だったからだ。 
あいつは誰かが自分に気付くのを待っている。 
恐怖しない獲物には関心がないんだ。 
鏡の向こう五メートルの床に這う身じろぎ一つしない人面トカゲ。 
これに気付いてしまった者だけが・・・おそらく不幸な結末を遂げる。 
もし、僕が死んでも君は葬式に来るな。これは返信がないことへの当てつけじゃない。 
おそらく、君は仕事が忙しくてメールをチェックし忘れているだけなのだろう。 
僕は君の身を案じて言っている。 
あいつは恐ろしく狡猾だ。知能も見た目以上に高いだろう。 
この数日、僕が連絡を取り合っていた相手が君だと気付けば次は君が狙われる。 
いかな君とて、鏡の向こう五メートル先を確認せずにはいられないだろうからね。 
奴はもう、僕の首に腕を廻して大きな口を開けている。 
首から・・奴の爪が当たってる所から血が滲んでるんだ。 
もう、鏡を見るのはやめた。 
悔しいよ・・こんな奴、触れるのなら絶対負けやしないのに。卑怯者め! 
奴の意図はもう明確だ。僕の頭皮を食い千切る気だ。 
頭蓋骨を噛み砕いて中の白くてプニプニした脳味噌をゆっくりすするんだ。くそくそくそ 
僕がいったい何をしたっていいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい