[ケイちゃん]
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「ねぇ、タカちゃん。ケイちゃんといつもどんな話するの?」
「ケイねぇ、会いたいけど動けないんだって。」
彼女は夏の余暇を利用して、息子と実家に帰ることにした。息子はおばあちゃん
の家に泊まりたいというので、1週間ほど実家に預けることにした。いつになく、
息子は嬉しそうに携帯の友達と話しこんでいた。実家から帰るとすぐ、彼女は母に
電話をいれた。
「タカは大丈夫?一週間よろしくね。タカの声が聞きたいわ」
「はいよ。ちょっと待っててね」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「お母さん!あのね!聞いてよ!」 しばらくすると息子の嬉しそうな声が受話器
から聞こえた。
「なあに、どうしたの?」
「ケイねぇ、ちょっと動けるようになったんだって!あと10キロだよ!近いん
だよ!」
「そうなの、良かったわね。」
「・・・・・・・こっちきてる・・・」
いやな予感がした。こんな夜中に「きてる」って、どういうことだろう?
「タカちゃん、正直に言って。ケイちゃんってどんな子なの?」
「交通事故だって。」

次の日の朝、実家から電話がかかってきた。息子からだった。
「お母さん。ケイねぇ、今日こっちきた。」
「え?」
「お母さんにも会いたいって。あのね、あのときのことで話したいって」
彼女は思った。ケイちゃんとは、事故で亡くした夫ではないかと。夫の名はケイイ
チロウ・・・
「タカちゃん、待ってて!いまそっち行くわ!」
その日は仕事を休み、実家に急いで行った。そして、息子を連れて事故現場へ赴いた。
彼女は、花をたむけ、夫を供養した。「・・・ごめんね。あたし、あなたと話したいわ。」
そのとき携帯が鳴った。「・・・はい。」
「お母さん、あのね、」  後ろを向くと、なぜか携帯を使って、息子が彼女に話しか
けている。山では圏外のはずなのに。
「ケイねぇ、いま病院だって。」
彼女は、近くの病院へ車を走らせた。そこは彼女と夫が運ばれてきた病院だった。
当時の担当医はすでに転勤していたが、事故当時の詳細を聞くことができた。
夫は亡くなる間際、しきりに何かを訴えていたのだという。彼女は夫と話しがしたか
った。

次の日、知り合いに頼み、彼女は霊能者に相談をした。霊能者は会ったとたん、いきな
り彼女に詰め寄った。
「夫さんと話しがしたいそうだけど、それよりあなた、大変なことになってるわよ!」
そのとき、携帯が鳴った。家にいる息子からだった。
「お母さん、ケイねぇ、もう歩けるから、こっちくるって。」
その通話を聞いて、霊能者の顔色が変わった。
「いますぐ切りなさい!」
「お母さん、ケイねぇ、あと100キロだって。」
「いますぐ切りなさい!息子さんにもいますぐ切るように言うのよ!」
「お母さん、あと99キロだって。」

続く