[噂]

中三の終業式1週間前ぐらいから変な噂が立ち始めた
内容は超シンプルで
「O先生がジサツするらしい」
ってやつだった
冗談なら失礼どころじゃねえし、マジなら受験前のデリケートな俺たちにはヘビーすぎる
当時の俺は、進路など微塵も考えていなかったので
同じようにヒマなやつを連れてその噂を調べてみた
が、そんなかっこいいスキルが備わってるはずもなく
内容以上のことはろくすっぽ不明だった
ただひとつ、その噂の出所を、教師含めた学校に在籍する全ての人間が知らなかったことを除いては

O先生のことを簡単に言うと、
「誰よりも長く、この学校にいる」
「生徒はおろか、教師、果ては教頭、校長からも慕われてた」
そんな優しいおばあちゃん先生だった
だから誰もその噂が真実であるわけないって思ってたな
誰からも愛されてる人が、ジサツなんてするわけないって

結局、噂についてはそれ以上解明できず、俺たちは忙しい夏休みに入った
勉強漬けだったり遊び呆けたり、みんな思い思いの夏休みを過ごしてたが
学校からの電話がそれに終止符を打った
登校日を数日後に控えた8月21日
鳴り響いた電話から聞こえた暗い声
「O先生が亡くなりました。明日の午前9時、校庭に集合してください」

噂は本当だった、なんて思うことすらなかった
あまりにも荒唐無稽なデマが真実になるなんて誰ひとり思っていなかったから
ただみんな、その理由を聞きたかっただけだった

夏休みが終わって二学期
体育祭が過ぎた10月頭ぐらいからまたバカな噂が立った
「A棟(東の校舎)の壁にO先生の顔が映る」
俺は呆れてモノも言えなくなったよ
そこらの教師が死んだならそんな噂もたつだろうが
みんなが敬愛してたO先生の死をネタにしやがるなんて考えられない
また誰一人としてその噂を信じなかったが、見たと言うやつがあまりにも言い張るので
本当かどうかを検証するために俺たちが見に行くことにした

そいつが見たのは、部活が終わった後、友達と喋ってたら遅くなり
もう暗くなった外に向かうため、校門へと歩いてた時だった
校門に何かが反射したみたいで、振り返って校舎を見上げたら
掲げてある時計ぐらいの大きさの、O先生のぼやけた顔が見えたらしい

続く