[見えない併走者]
私が体験した、自分にとっては洒落にならない程、怖かった話。 
当時私は、自転車で一時間近くかけて高校に通っていた。 
進学クラスということもあり、朝早くに登校して、夜になってから下校する毎日だった。 
あの日も、学校を出たのは7時頃。夏という事でまだ日は落ちていなかったが、徐々に辺りが暗くなって行く様は逆に、初めから真っ暗な夜より不気味に感じていたのを覚えている。 
学校を出て十分もした頃だろうか、後ろに何か気配を感じた気がする。 
何気なく後ろを振り返るが何もない・・・。 
「気のせいか・・・」 
私は気にせずそのまま自転車を走らせた。 
思えば、この時にどこからか奴を連れてきてしまったのだろう・・・ 
さらに自転車を走らせる事、数分。 
ある民家の前を通る。田舎であるために民家はまばらに建っており、各々の間は離れているのだが・・・ 
そんな事はさておき、ある事に気が付いた。 
「あれ、今誰かいなかったか?」 
私は違和感を感じた。先ほどまで後ろを振り返った時には誰も居なかったはずである。 
にも関わらず、今通った家の窓硝子には私と、その数m後ろに着いてくる影があったような気がする・・・ 
私の知らない内に誰かやってきたのか。別に気にする程の物でもないかもしれないが、やはり気になる。 
「今の影、自転車に乗ってたか?」
私は自転車に乗っている。しかし、先ほど映っていた後ろの影は何も乗っていなかった気がする。 
にも関わらず、私とほぼ同じスピードで着いてきていた? 
いや、気のせいだろう・・・と心の中で打ち消す気にもならず、しかし後ろを振り返る勇気もない。 
丁度お誂え向きにミラーが見つかる。 
ちらっと、後ろを確認する・・・良かった、誰も居ない・・・ 
しかし、また民家の前を通り、窓に私の影が映った瞬間。 
「!!??」 
やはり、居るのだ。私の後ろ数m。 
今度は確実に見えた。人だ。何にも乗っていない。手を前に突き出す用なポーズをしている。 
そして何より私の恐怖心を煽ったのは・・・近づいてきているのだ。 
先ほどより、確実に。 
手を突き出す不自然なポーズで、何にも乗っていないその影は、自転車に乗っている私より早く走り、私に近づいてきている。 
「やばい!!」 
そう思った私は自転車のスピードを上げた・・・