[長いトンネル]

昔、日本海側にカニ喰いにいった時の話なんすが。
親と一緒に車でいってて、俺だけ先に帰る用事があったのね。
金はかかって仕方なかったけど、贅沢はいえんから朝早くに旅館でて、電車に飛び乗ったわけさ。
で、俺馬鹿だから反対方面の電車のっちゃってさ。ガタゴトと
目的地とは真逆の方向にいっちゃったわけね。
電車のってからそれに気付いて、とりあえずこのまま乗り続けてても
仕方ないからって思って降りたんだ。
で、反対方向の電車を待つかって思って時刻表みたら
そこ田舎で雪国だから
冬場とか二時間に一本あるかないかのトコだったわけ。
こりゃやばいって思って、急いで親に携帯で電話かけようとしたけど
山に囲まれて圏外。で、どうしようか悩んだ挙げ句、
用事の方はキャンセルして、とりあえず旅館まで戻ろうと思ったのよ。
でも、電車ないから歩いて帰ろうとしたわけさ。
車道は水吹きだしてて歩き易そうだったし、なにより
確実に迷わずにつけそうだったから一般道を
徒歩で旅館を目指したのさ。

多分、一時間もかからんだろうなって思ってたのね。
ウォークマン聞きながら陽気に歩いてたんすわ。
歩くの好きだし、まあ、山道を眺めながらハイキングってのも
楽しいだろうってあくまで楽観的。
こん時はほんと、心霊なんて文字一言もなかったね。
朝だし。
しばらく歩いて大分体も温まってきてさ、この調子なら
すぐつくだろうなって思ってたのよ。結構道すべったりして
危険だったけど。時々、車が横を通りすぎていくんだけど
大抵のドライバーは「なにやってんだ?」って顔でこっちも
みてる。「そんな顔すんなら停まってくれよ」って内心思いながら
車を見送る。多分、俺が女の子、子どもに見えたならすぐにでも
声をかけてもらったんだろうけど、見かけオヤジだったからなあ。
でもまあ、気にせずガンガン進んでいったわけだ。
するとさ、あるのな。やっぱり山掘ってできた道だから。
トンネルが。
一本目は結構短いの。大体50mぐらい。
もうすぐに向こう側が見えてる。
でもやっぱり不気味だからウォークマン全開で
突入。もうガンガン、車が横切っていくから怖い怖い。
別の意味でスリリング。でもまだ楽しんでた。

続く