[黒いカッパのおっさん]
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その後バイトも無くワシ等は移動する事にした。
巨大なかるがものような連結フロートボートは、ゆっくりと黒いおっさんのポイント
に差しかかる・・・・・・・・ワシは頭の中で読経しながら目を閉じた。
それでもおっさんの存在は否応なくワシに迫って来た。
耳鳴りだか何だか解らん音が経を邪魔し、頭痛で重石でも乗せられたような状態になる。
弟はまたしてもエレキのスピードを上げ、そのポイントをスルーした。
上流域を過ぎてから、少しづつワシの全身の重さは軽くなり、二人で釣りを再開した。
ワシは何で弟があのポイントをスルーしたかは聞かなかった。
そしてワシが見たものの事も話さなかった。
まだ寒気はあり、気分も悪かったが、弟との釣りを無理矢理にでも楽しもうと思った。
弟との釣りの時間は、大人になった今、年に一度あるか無いかの貴重な時間なのだ。
暫く二人で岩盤のポイントを撃って、小さなワンドを見つけた。
「兄ちゃん投げたら?デカいの付いてそうじゃない?ココ。」

無理です・・・・・・・

だって、あのおっさん、ここまで来ちゃってるもん!!

その大岩と岩盤で出来た小さなワンドの上の方に、あのおっさんの姿があった。
黒いカッパを着たように、全身真っ黒でワシを見下ろしている・・・・
カッパは例えで、周りを黒が覆ってる感じだ・・・・・
黒・・・・死の色・・・・・・・・・こんなに霊を怖いと思ったのは久々だ・・・・。
ワシはおっさんの姿をチラ見しただけで速攻で目を逸らせ、下を見たまま弟に言った。
「今日は・・・もう帰ろうぜ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・そうだね・・・・」
夕マズメになりかけの、トップウォータープラッガーにとって一番燃える時間帯に
ワシ等は帰路についた。
ワシは一度も後ろを振り返らず、スロープでも一度も水場を振り返れなかった。

その後暫くの間、ワシはM野ダムには行けなかった。
今でも上流には絶対行かない。
後から知った事だが、黒いおっさんの目撃例は他にもあるそうだ。
M野ダムに通い込んでるボーターにも、上流は何故か気持ち悪いと言う人も多い。
自殺も、全国ニュースになった死体遺棄もあった場所だ。
ワシと同じ物を見たかどうかは知らんが、霊なんて珍しくもない場所な筈だ。
ただ、あの黒いおっさんは他の霊達とは全然違う、殺気のような物を身に纏っていた。
見た物を取り殺す類の、黒い怨念だ。ワシは運が良かっただけかもしれない。
霊感体質な人は、絶対M野ダムの上流には近づかないほうがいい。
そして、時間をおいて弟に何故あの時あのポイントを撃たなかったのかと聞いてみると、

絶対見てはならない、何かの存在を感じたから。

だそうだ。なんだ・・・お前もやっぱりワシと同じ血流れてんじゃん。


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