[黒いカッパのおっさん]

それは以前書いた拾ったPOPーXの話を経験した年(4年前)の秋の事だった。
秋田に住んでる弟が、久々に連休が取れたのでワシと釣りがしたいと連絡してきた。
「だら、こっちも無理矢理連休取るで、M野でも行ってゆっくり釣りしようぜ!」
という感じで釣りの予定は決まり、ワシは連日殺人的な残業をこなし休みを取った。

M野ダムとは、東北屈指の大型が釣れる事で有名なリザーバーだ。
最近ではバスワールドの取材なども行われてる。
ワシと弟が合流していざM野ダムに向かったのは、秋も深まる10月中旬の
秋晴れと言うにふさわしい、平日の昼下がりだったと記憶している

弟はその年に買ったばかりのパントを売り払い、何を思ったかフロートボートを2艇も
買って車に積んで来ていた。どうやらワシに乗り心地を味わわせたかったらしい。
ワシは準備をする弟を尻目に陸っぱり開始!←我先野郎
フロッグでワンドの奥を攻め、いきなり52cmを釣り上げ弟を凹ませるw
「大丈夫!これからもっと釣れっから。今日は良い感じだぞ〜!!」
と弟を励まし、勢いよく出船するが全く釣れない・・・・・。
しかもあんなに晴れてた空が、僅か1時間程の間に曇ってきている。
ワシはキャスティングの回数を減らし、なんとか弟にいいバスを釣らせようと、
ポイントを見定める事に徹する事にした。
「あそこ入れれるか?プランク(ZEALのシングル水車)投げろ。そう!で、ポーズ。」
などとアドバイスを繰り返すが全く釣れない。出もしない・・・・・。
もう一番おいしい場所に行くしかないと思ったワシは、弟に上流に向かうように言った。
ワシ等が向かった上流は、沈み橋、オーバーハング、なる木(50UPがなる木)と呼ばれる
立ち木など、ランカーサイズがかなり出ているMダムの一級ポイントの集まりだった。
非常に不安定な連結フロートボートが上流域に入った時、ワシは妙な違和感を覚えた。

誰かが見ている・・・・・・・

上流域は今や曇りどころか薄い霧までかかっている。
ワシは『こんな時に変なモン見たくない!』と、視線は無視する事にした。
弟も何故かに無口になっている。ワシが知る限り弟は霊感的なものは無い。
しかも霊なんて全然怖くないと言う。きっと能天気な母親の血が濃いのだろう。
暫くぼーっと前進してたのだが、あるポイントでワシは小さな水音を耳にした。
その頃には誰かの視線は頭痛に切り替わって居た。小さなインレットがある・・・・・
ワシが視線を向けた先には、柳の木がオーバーハングしているインレットがあった。
その時ワシは凍り付いた。

柳の幹の横に真っ黒な何かが居る・・・・・・・目が・・・合った・・・・・・。

男である事はすぐに解った。しかしその男が居る周りが真っ黒なのだ。
目だけは血走っているかのようにギラつき、凄い圧力でこっちを見ている。
その姿は、まるで夜に真っ黒なカッパを着込んだような闇色だった・・・・・・
硬直しているワシに気付いているのかいないのか、弟はエレキのスピードを上げた。
そこはバックウォーターに絡むインレットである。攻めない手は無い筈だ。
ワシは呪怨の塊のようなおっさんの視線から何とか逃れ、弟と更に上流に上った。
そこで弟はかなりデカいバスを豪快にバラし、バカ兄弟に笑顔が戻った。
しかし、帰りにはまたあそこを通らなければならない・・・・・・

続く