[ツンバイさん]
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でも、問題は何であんな体育館に放置された一台の一輪車くらいで、
こんな風に黒板に書き出されなきゃいけないのか、ということだった。
一輪車を片づけないで放置する生徒は実際多かった。
5年生だけでなく、1年〜6年生まで遊具を片づけない奴らは結構いた。
それなのにこのピリピリムード。
やがて1時間目になり、担任が教室に入ってくるといつものように挨拶済ませて、
授業を始める前に黒板の連絡内容についての話が始った。

「うちのクラスの前にお手洗いがありますね。
そこの男子トイレの個室の中に昨日の放課後、1年生用(緑)の一輪車が置いてありました」

その言葉を聞いた時、俺は予想に反する見当違いに、(?)と首を傾げた。
いや、首を傾げかけた俺はぷつぷつっと鳥肌を立てた。
「昨日のこと」だ。教室前のトイレに駆け込んだ俺と弟は個室で大きな物音を聞いている。
あれは個室の中で一輪車が倒れた音ではなかったのか、と俺は理由もなく恐ろしくなってきた。
うちの学校での一輪車は3種類あり、大中小を各学年ごとに色分けして使用している。
緑が1年〜3年、黄色が3年〜4年、赤が5年から6年となっている。
小さい緑の一輪車なので、低学年坊主のイタズラかと思われたが、
自分の学年(5年)のトイレの個室に放り込まれていた悪質なイタズラである。
当然、高学年のほうに疑いがかかるのは当然であったが、誰も心当たりはない。
ただ俺と弟だけは、昨日の放課後、5年の男子トイレに誰かがいたのではないか、という漠然とした疑いは抱いていた。
この事件はちょっとした問題となり、後日、全校生徒の間でも遊具の管理や整理整頓をきちんと行なうように指導された。
それからというもの、遊具を遊んだ後に放置する生徒はいなくなったが、
結局犯人は分からず終い、またクラスにかけられた疑いが晴れぬまま、
5年生徒の誰かだろう、という結論には俺や他のクラスメイトも釈然としないものがあった。

そこで俺は真犯人を幽霊と勝手に結論づけて、再び放課後の心霊写真遊びを始めた。
当然、怪しいのは5年の男子便所。弟はもうあの出来事以来、ビビってこの遊びには付き合わなくなってしまったので、
俺一人で空の暮れかけた放課後の校舎を徘徊する。今考えてみるとゾッとするが…。
使い捨てカメラでトイレの隅々を撮影し、(心霊写真よ出ろ!)とワケの分からぬ念じを込めながら、
鏡に自分の姿を映して撮ってみたり、黄ばんだ便器を撮ってみたり、
床を撮ってみたり、掃除用具の暗がりの中を撮ってみたり、もちろん問題の個室のほうも入念に撮影した。

後日、学校から帰ってくると、親に頼んでいたカメラの写真が出来上がったことを知り、
ランドセルを玄関に叩きつけて自分の部屋に飛び込んだ。
40数枚撮影した写真を一枚一枚ワクワクしながら凝視する。
怪しいものが少しでも写っていたら、あの放課後の出来事は幽霊の仕業だったのだ、と自分で納得できるからだった。
…しかし、現実とは味気もないもので、撮影したすべての写真には「心霊」らしきものは何も写っていなかった。
ピントもロクに合わず、滅茶苦茶なアングルからの便所一色の写真だ。
俺はひどくショックを受けて、もう今後は心霊写真などという馬鹿げた遊びはやめようと思った。
ところが、机の上に散らかした写真を封筒に戻そうとしていた時、ある事実に気がついた。

続く