[おごめご様]
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結局学生の気楽さで、平日も自主休講して二日から六日までお茶の手伝いをし、明日は帰るかと言う五日の晩だった。 
従妹(家はすぐ近くだがこの時は泊まってった)はもう寝ており、ばあちゃんと父母、俺で、 
夕食後にのんびり酒を飲みながらだべっていた。 
大方はお茶の話で、今年は三月から冷えた日が続いたから今一葉っぱの出が悪かったとか、 
この辺ももうお茶を継ぐ人がおらんで大変だとかそんな愚痴みたいな話をしていたんだが、 
その内にふっと思い出しておごめご様の話をしてみた。 
俺「そういやさー、ゆきの学校でさー、なんか変な神様がはやってんだって。おごめご様とかいってさあ」 
するとばあちゃんがぎょっとした顔をした。 
俺「?」 
祖母「それ、本当か? おごめご?」 
俺「らしいよ。よく分かんないけど、願いを叶えてくれるやらお化けやら諸説出てるって」 
祖母「………はあー、まさかゆきはさわっとらんだろね」 
ばあちゃんは何だか本当に驚いたような顔をしている。父母がきょとんとしているので、俺は二人におごめご様の説明をした。 
父は膝を叩いて言った。 
父「あー、知ってるぞそれ。俺のときは何だったかなあ。 
なんだか新館を建てる時に山を削ったら山の中にあの石があって、邪魔だからって掘ってみたんだな。 
そしたら下から壷に消し炭だか骨だか入ったのが出てきて、こりゃなんだか曰くのあるもんだろうっつって 
お祓いして岩をあそこに動かしたとかなんか、そんなんじゃなかったかな」 
初耳だった。墓石というのも満更ガセではなかったらしい。 
聞けば俺たちが噂していた二階から落っこちたやつは親父の四つ上の男子だと言う。 
窓の側でふざけていて、身を乗り出しすぎて落ちたらしい。 
確かにあの岩に頭をぶつけて危なかったが、死んではいないという。 
父「ばあさんも知ってるのか、アレ。子供だけの噂だと思ってたわ」 
するとばあちゃんは呆れた顔をした。 
祖母「知ってるも何もあんた、ありゃSんとこのモンだい。S、ほら、じーさんのハトコが跡とってからすっかり潰れたろ。 
山ももう持ってられんくなったんだな。ちょうど学校を広げるっつうから県に売ったんだ。近所でもずいぶん止めたけえが 
聞きゃあしない。ほいで山潰して学校にして、すぐSの家屋敷も焼けちまったろうが」 
Sというのはこの辺に多い名字で、今話題になってるのはウチの裏手の方、山際のS家だ。 
小さいころからあんまりいい噂は聞かない家だった。焼けたという割には立派な家に住んでいるが。 
祖母「それでまー、うつす時も大変だったよう。わざわざヨソから拝む人連れてきてさ。だから触るなっていったのになあ」 
俺「え、その山にあったのって、なんかまずいもんだったの?」 
あまりにばあちゃんが嫌そうに言うので、思わず尋ねると、ばあちゃんは顔をしかめて言った。 
祖母「あれはさ、Sのとこで持ってたモンだで、何でも子供の神様でさあ、よっく祟るんだなあ。母ちゃんに良く言われたよう、 
Sの山には入んなって」 
俺「あれってオゴメゴって言ってたの? 昔から」 
祖母「おごめごったら男の子と女の子のことだな。ウチらはなんて呼んでたかなあ、やっぱりオゴ様とかオゴメ様とか言ってたな。 
Sと仲いい家ってなかなかないだろ、祟られるからだろて」 
ここから先は学校の増築を推進した地主の家の悪口やら山の値段が下がった話やらになった。 
以上で大体話はおしまい。 
元々はSの家の神様だったのが学校の中に移って、しかも学校の怪談になっているのが俺には面白く思えた。 
それにしても、親父のころも俺のころもおごめご様なんて言わなかったのに、なんで今になってそんな名前が出てきたんだろうか。 
神様の方は誰かの創作だとして、お化けの方のおごめご様って、誰か見た人がいるんだろうか。 
つうかおごめご様って何よ? 
謎は尽きないがとりあえず終わり。