[和服の少女]
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 私はT君と別れ、急いで件の山に登り、そこに奉ってある地蔵が奉ってある祠の前に、不恰好な注連縄を置いた。
 何処からか、聞いたことの無い歌が聞こえ、そちらに足を進めた。

ここで私の記憶は途切れ、次に目を覚ましたときには、病院の個室だった。
 後で知った話では、その後に私の両親が夜になっても帰ってこない私のことが気になり、警察に電話をしたそうだ。
 そして、五日後になってようやく、その山の中の洞窟の中で眠っている私を見つけたらしい。
 だが、その時に父が暴れた私に腕を噛まれ、凄い力で肉を裂かれたという。
 ちなみにわたしの持っていた注連縄も無く、腰に下げていた笹餅も無くなっていたらしい。
 
ところで、私がひとつ気になっていることがある。T君の事だ。
 後日、T君の話を聞いたところ、彼はその日は休んでいて一日中、家で寝ていたらしい。
 他のクラスメートも口をそろえて、そう言っていた。では、あの日のT君はいったい誰だったのだろう?
 私の祖母が言うには、ススキで作った注連縄を身に付けるというのは、山の神様に身を捧げるときの儀式だという。
 私が聞いた歌は“山ヌシ”が宴をするときの歌で、あの時のT君は山の神様の使いなのだ、と。きっと、お前と波長があったのだろうと、そういって微笑んだ。
今でも、その歌のメロディーだけは覚えているため、よく口ずさんでいたりするのだが、不思議と心が安らぐ。

ともあれ、あの日から私の目には、徐々に奇妙なものが映るようになった。
 その第一号が、和服の少女である。彼女には何度も助けられたり、奇跡的な腐れ縁を貰ったのだが、それはまた別の機会に話したい。

 ようやく、書き終えたので、和服の少女の話を投下しようと思う。


 あのあと、私は目を覚ましてから、一週間の間は病院のベッドで寝ていた。
 脳にも損傷は無いらしく、すぐに退院できるくらいだったらしいが、父の腕から私を引き離す際に少し乱暴に剥がしてしまったらしく、所々骨にひびが入っていたそうだ。
 少女と出会ったのは、私が目を覚ましてから3日目か4日目の夜。ちょうど私の村で、山の神の祭りが始まる時期だったと思う。
 私は母が買ってきてくれた、漫画雑誌を読みながらベッドに横になっていた。
 
パチン

 そんな音と同時に、部屋が暗くなった。その時は、ただ看護婦さんが電気を消しに来ただけかなー。などと思っていたのだが、少しおかしい。
 普段なら、10時頃が消灯時間だというのに、今はまだ8時にもなっていないはずだ。
 私は少し怖くなり、ナースコールに手を伸ばそうとしたのだが、腕が動かない。
 冷たい感触が、手首の周りにこびりついた。それは確かに、母に手を握られたときのような感触だった。氷のような冷たさを覗けば、であるが。
 そして、また「パチン」という音が聞こえ、次は体を思いっきり突き飛ばされたように、ベッドの上から転げ落ちた。
 しかし、不思議と痛みは無かった。痛めているはずの膝も、腕も何の問題も無く動かすことが出来た。
 とはいえ、あんな怖い思いをした直後で、そんなことに疑問を抱いている暇も無い。
 私は、ふらふらとした足取りで、部屋のドアを開けた。

 パチン……パチンパチン

 音は不規則なリズムで、私の後を追うように近づいてくる。
 私は必死になって、震える足で真っ暗な廊下を必死に走り、ようやくトイレから漏れる光が目に入り、安堵の溜息をついた

続く