[強行引っ越し]
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押入れで寝ている足元に、何かぼうっと光ってるのが見えた。
不気味な声もすこしづつ大きくなっていき、声の大きさに合わせてひかりも青白く大きくなってきた。
「・・・で・・・・・・・・・・い・・・け・・」不気味な声は私の耳元で聞こえる感じ。
青白い光はじわりじわりと大きくなってきた。
あっ・・と思った。
そのひかりは人の顔をしていた。
しわのある怒りの表情のおじいさんの顔。
リンゴくらいの大きさが、どんどん大きくなってくる。
そして声も大きくなる。
「でて・・いけ・・・でていけ・・・でていけ・・・」
バレーボールくらいに大きくなって、目の存在を確認してしまった。
一瞬、しっかりと私と目があった。
完全に私をターゲットにしてる!!!
「出て行け・・・出て行け・・・出て行け・・・」
もう、怖いとかそんな陳腐な言葉では言い表せない・・・恐怖。
「出て行け!出て行け!出て行け!」もう、声も怒りの声になっていました。

私は金縛りのまま、気を失えるでもなく、顔から目をそらせてお祈りした。
「出て行きます。今すぐ出て行きます。・・・」
何度も何度も繰り返しました。汗だくになってるのがわかる。
「出て行け・・・」
少し声が小さく聞こえたかと思うと、それが最後の言葉でした。

不意にガクンと金縛りが解けて、声も顔も消えて、何人かの軽いいびきと寝息のみの静寂になっていました。
耳鳴りも消えていました。
私の荒い息使いが、押し入れの中で広がるばかりでした。

その後、私は半泣きになりながら押入れから出て、M子さんの横に毛布を引きずっていていきました。
目が覚めたM子さんは
「どうしん?」って聞いてきた。
「ちょっとだけ怖い夢見て・・・。」といった後くすっと笑ってみました。
せっかくの結婚式の夜にこんな話も出来なかったですから。
M子さんは、私の頭をなでながら
「そうなんや、平気、平気、大丈夫。」って添い寝してくれました。

実を言うとA氏の好きだったけど、M子さんのほうがもっと好きです。

でも、あのおじいさんの顔・・・目・・・声・・・いまだに忘れられません。

続く