[まとわり憑く女]前頁
Sがタイ子の携帯に電話をかける。俺はその間、車の外に出て部屋の様子を
探っていたがなんら変化は無い。Sの乗る運転席を窓越しに覗くと、Sは首を
傾げながらこっちに「何か変」との合図を送ってきた。そう、なんか変なんだ…
「S、どうよ?タイ子どうだった?」
「あぁ、あれタイ子かぁ?どうもタイ子じゃない気がする…エーコだと思う…」
「え?エーコだったの?なんだって言ってた?」
「大丈夫、大丈夫って。あとで電話するーって言った後、切られた。変だな。」
部屋を見るが、相変わらず部屋の電気は点いてない。
腑に落ちないまま、俺はSと別れた。とりあえず、明日Sの仕事が終わった後
待ち合わせをする事にし、家に帰る。
あー疲れた。ホントに疲れた。なんだか仕事なんてどーでもいい気がする。それ
よりも、今はエーコとタイ子が心配だった。
面倒くさくなり、着替えもせずにそのままベッドに横になるが、全然寝付けない。
オカルト的に物事を考えてみる。するとどうやっても最悪の結果しか思いつかず、
むしゃくしゃしながら起き出しタバコに火をつけた。そのとき!
携帯が鳴った!
なんとエーコからだった。
「Tさん、会える?大丈夫?」
「あぁ、会えるよ、今どこにいる?」
「家にいるよー、ちかくにロー○ンある。そこに行くよ。来れますか?」
「どこのロー○ンだ?場所わかんねーぞ。」と嘘をつく。
「○○○町のロー○ンです。来れますか?」
「分かった。そんなに遠くないから、すぐいけるぞ。Sはいないけどいいか?」
「いいです。Tさんに会いたいです。」
女に頼られて力のでない男なんていやしないだろ?そんときばかりはエーコの
顔しか思い浮かばなかった。待ってろ!待ってろ!口癖のように言い続けて、
Sに電話することすら頭に無かった。
ロー○ンに着いた。外でうずくまってるエーコのすぐ近くに車を止めると、エーコ
がニコッと笑った。そう、かわいい笑顔だったのを覚えてる。
車に乗せ、家に向かう。聞きたい事はたくさんある。エーコ自身のこと、タイ子
の事、Sの家を出てからの事、部屋で何してたのか、Sの親父さんのとこには
このまま明日行ってしまおうとか…
部屋にエーコを入れる。明るい部屋でエーコの顔をまじまじと見る。少しやつ
れている気はするが、見当たる部分に外傷等はなさそうだった。
「Tさん、わたし…もう会えないよ…」と、エーコがつぶやいた。
「どうしてだ?もしかして国に帰るのか?」
「ウン…」
まぁ、日本に来てこんな変な出来事に巻き込まれたりしたら、誰もが母国に帰
りたくなるだろうなぁ・・・なんて考えたら、仕方の無いことだと思った。
エーコが抱きついてきたので、拒否はしなかった。店に行き始めて約一年で
初めてエーコと関係を持った。なんとなくエーコから「鉄」のにおいがしてたが、
女性特有の日の前後かな?って。日本人は外国に行くと「醤油くさい」って
言われているとテレビで言ってたのを思い出し、全然気にも留めなかった。
エーコと「こと」が済んだ後、タバコを吸いながら俺はぼんやりと考えてた。
何も聞かずに、起きたらこのままSの親父さんのとこに行った方がいいかな…
いや、まて!ひとつだけどうしても聞きたいことがある!
続く