[まとわり憑く女]前頁

「S、お前何でそのオバハンの顔知ってるの?」
「会ったことがある。しかも家の中でな。ベッドに入ろうとした時、いきなり寝室の
ドアを爪でこするような音がしたんだ。さすがにビビッた。そしたらドアがいきなり
開いて、入ってこようとしたのがそのババァだった…無我夢中でドアを押さえなが
ら蹴りいれたら、なぜかその時は命中して吹っ飛んだにもかかわらず、肘から先
だけがドアの内側にへばりついてバタバタ暴れてた…あれは絶対人間じゃない」
「まじかよ…」

エーコと日本語が一番達者な子(名前忘れたから仮にタイ子とする)以外、
俺らの席には女の子誰一人として着かず、結局閉店時間となってしまった。
「S、お前引っ越したほうがいいんじゃね?」
「あぁ、まぁ…な。T、もう少し飲まないか?」
「そうだな、明るくいくか?だったらエーコとタイ子誘うぞ!」
「あぁ、Tと暗く話したとこで結果変わらんからな、明るくいこっ!」

エーコとタイ子を誘い出し、開いている店を探す。さすがに平日だと見つから
なく、カラオケBOXでも行こうか?なんて話していたところ、「Sさんの家いって
みる?」とタイ子が言う。
「おいおい、タイ子おまえ話聞いてただろ?怖くないのか?」
「怖いよ!でもSさんは家に一人でもっと怖いよ!」
「S、どーするよ」
「別にかまわないよ、本気で言ってるのかな?」
「ホンキだよホンキですよー」

残り少ないタクシーを見つけ、Sの家に向かう。エーコとタイ子はかなりの上機嫌
だった。今となって考えてみると、怖さよりも、男の一人暮らしの部屋に行く事が
嬉しかったのかも知れないが。
Sの住んでいるマンションは、少し古いが何ら見劣りすることも無く、逆にうらやま
しいと思えるくらいのマンションだ。早速エレベーターにのり、8階で降りる。
「ここだよ」
「おぅ、夜中なのに邪魔してすまない。」と、少々ビビリはいった俺。
「あぁ、いいって。俺はむしろ大歓迎だよ。エーコもタイ子もさぁどうぞ!」
玄関に入り、Sが鍵を閉めようとした瞬間、俺を見る。

「やばい…鍵がかからん…」
「下の鍵は?とりあえず半分ひねればドア全開にはならないだろっ!」
「分かってる…だめだ…びくともしない」
「俺に貸してみろっ!Sだからダメなのかもしれんっ」
Sをどかし、鍵に手を触れた瞬間!

…ドアノブが回った…

続く