[シャム双生児]
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ピムには、ジェイというハンサムな恋人がいました。
ジェイは、ピムとプロイが17歳の時に、入院していた病院で知り合ったので、
ピムの過去も全て知っており、それを受け入れて、恋人として付き合っています。
新鋭の建築家で、今は、二人で、ロスに住んで、多くの友人と、楽しく生活を
していました。 そこへ電話があったのです。 「バンコクの母が危篤です。」
二人は、急いでバンコクへ戻ることにしました。
まず、急いで病院へ駆けつけると、眠っていた母が、急に驚き、ピムを見て、
がたがた震え始めました。 まるでピムの後ろに何か、恐ろしいものがいるように・・・
病院を後にした二人が、昔住んでいた家に戻ると、そこは、10年前から、
時間が止まっていました。 クローゼットには、ピムとプロイのお揃いの洋服、
靴がならんでおり、二人が一緒に座れるように、特別に作った鏡台もそのままでした。
その鏡台の引き出しには、プロイが使っていた眼鏡も残っていました。
その夜からです。 不思議なことが起こり始めたのは。
明らかに、ピムは横に誰かがいるような気配を感じます。
寝ていると、横で、寝息が聞こえる、ピムを見て、犬がけたたましく吠える、
また、昔からいるメイドさんも、ピムの顔を見るなり、引きつったような顔になり、
消えてしまうなどの、不思議なことが起こります。 ピムは、思い出していました。
あの約束を、「ずっと一緒だよ、死ぬまで一緒だよって。」
ジェイは心配して、ピムを精神科の医者につれてゆきました。 精神科の医者は、
あなたが、見えるように錯覚しているのは、あなたの頭の中にあるイメージで、
原因は、あなた自身の心の中にあるものと説明しました。
しかし、ジェイも見たのです。ピムが座るソファの横がへこんでいること、
ピムがソファから立ち上がると、すぐ横のへこみも、元に戻ることを。
ジェイは、二人が結合双生児の頃に、病院で、ピムと出会っています。
絵が好きで、よく二人の絵を描いていました。 モデルは、ピムが右側、
プロイが左側でしたが、全ての絵は、ピムだけを描いていました。
プロイは無視していたのです。
しかし、彼は、今見たソファのへこみは、確かに、ピムの右側にあったのでした。
ピムは、相変わらず、プロイの幻覚におびえていました。
寝ていると、横には、あきらかにプロイの雰囲気が感じられます。
それは、日に日に、強くなってゆきます。
ピムは、半狂乱になり、クローゼットにあったお揃いの服・靴、写真など、
すべての結合双生児時代を思い出させるものを持ち出して、ジェイに頼みました。
「全部、焼き捨ててしまって、もうたくさんよ。」
そしてしばらくして、容態が安定していた母が、急死してしまいました。
目を見開いたまま、恐ろしくおびえた表情のままの死に顔です。
ピムは疲れ果てて、涙も出ない状況でした。
ジェイは、ピムの代わりに、母親の葬儀を行いました。
そして、一段落すると、ピムに言いました、「明日、ロスへ戻ろう。」
ピムは、これでプロイの亡霊から逃げ出せる、ありがとうとジェイに感謝しました。
その夜、ピムがシャワーを浴びていると、落雷があり、電気が消えてしまいました。
真っ暗なシャワールームで、ピムは気が狂ったように、ジェイ、ジェイ、
何処にいるの、早く来て、と泣き叫びました。
そう、ピムには、はっきり見えていたのです。 横にプロイがいるのが。
そこへ、懐中電灯をもったジェイが現れました。ピムは泣き叫んで、ジェイに
飛びつきました。 「怖い、怖い、プロイがいる。」
ピムと、ジェイにはひとつの約束事がありました。
それは、切断手術の跡を見て欲しくないとのことです。
セックスをするときも、寝るときも、ピムは、腹部を常に、
コルセットで隠していましたし、シャワーは必ず一人で浴びていました。
ジェイに飛びついたときに、電気がつきました。
初めて、ジェイはピムの全裸姿を見たのです。
腹部の切断手術跡も、しっかり目に飛び込んできました。
しかし、その跡は、彼女の左わき腹についていたのです。
ジェイは、昔、絵を書いていた時を思い出しました。
向かって、ピムが右側、プロイが左側、だからピムの右わき腹が、
プロイと繋がっていたはず。切断手術跡も、右わき腹にあるはず・・・・
そこまで考えると、急に、目の前が真っ暗になりました。
ピムが、花瓶でジェイを殴ったのです。 ジェイはそのまま気絶してしまいました。
気がつくと、昔、ピムとプロイが使っていたベッドに縛り付けられています。
足元には、ピムが眼鏡をして立っていました。