[お面をかぶった女]

心霊ではないのだが、幼少の頃に父と父が勤務していた職場の
社長から聞いた薄気味悪い話を。

家の父は「レッカー屋」という職業をやっていて、簡単に言うと
クレーンを操縦して大工さんと一緒に家を建てる仕事をやっている。

この仕事は一般的にレッカー屋さんで何年か雇われ運転手として経験を積み
資金をためて独立するのだが、家の父も何軒かのレッカー屋で経験を積んだ後に
40歳くらいで独立した。

父が雇われ運転手として最後にお世話になったレッカー屋さんがKさんという方が
やっている「K重機」というレッカー屋で、Kさんの自宅兼事務所があるのは
神奈川県の茅ヶ崎で、父は毎朝から横浜の自宅から車でKさんの家に行き、そこから
クレーンを運転して現場に向かっていた。
父がK重機でお世話になっていたのは俺が幼稚園〜小学校低学年くらいの時期で、よく父に
連れられKさんの家に連れていってもらっていたのだが、今だに印象に残ってるのは
Kさんの奥さんが霊感が強いらしく、俺が遊びに行くたびに怖い話を豪快に
「まったくやんなっちゃうわ、アハハハ」と笑いながら話してくれた。

俺が遊びに行くたびに、サービス精神を発揮して怖い話をしてくれるものだから
当時の俺はKさん家に遊びに行くのが嬉しい反面、ちょっと怖い、ちょっとドキドキと
言ったような感じで、父と一緒に車でKさん家に向かう道が冒険、怖いところへ
続く道、みたいに思えて、毎回Kさん家に向かう道中ワクワク、ドキドキしていた。

Kさん家へ行く途中に確か、バス停があり、父は毎朝そこの前を必ず通る事になっているのだが
ある日、父と車に乗り、そのバス停の前を通った際に父がふと思い出したかのように

父「そういえばな、毎朝5時半頃かな、国年さんの家に行く時にここを通ると
  バス停に必ず一人だけ女が立ってるんだよ。ここら辺のバスが何時に始発が
  出てるのか知らないけども、俺がここ通る時は大体そのバス停にいんだよ。
  最初は特に意識してなかったんだけども、この道を通るようになって
  しばらくしてね。気付いたんだよね」

俺「何を?」

父「そいつ、お面被ってるんだよね」

俺「お面?どんなお面?」

父「お祭りに売ってるようなお面。ドラゴンボールとかあぁいうやつ」

俺「顔をまったく見えないの?」

父「見えないなぁ、いつもお面被ってるからなぁ」


出勤途中にお面を被ってバス停に立ってる薄気味悪い女がいるという話を
父から聞いてからと言うもの、そのバス停の前を通るのが怖くてね。
昼間はまだいいけども、Kさんの家に遅くまでお邪魔して夕飯までご馳走になってしまう事が
結構あったからそうなると、国年さんの家を出る頃には辺りは真っ暗よ。
「もしかして、帰り道にお面のバス停女がいたら怖いな」なんて思いながらも
やっぱり見たいという気持ちがあり、助手席のシートに隠れるようにして窓からこっそりバス停を
見てみたたり、後部座席に隠れてそこを通る際に父に「いる?ねぇいるー?」とびびりながらも
楽しんでいた記憶がある。

でそれからしばらくして、これまたKさんの家に行った時に、父が話し始めたのか俺が話し始めたのか
忘れたが「お面をかぶった女」の話になったのだが、その時にKさんが

「あ?見た?修ちゃん(父の名)も見たことある?あぁそう」と。

どうやらKさん、そしてKさんの娘の旦那さんも何度か目撃した事があるらしく

「あいつ、ずーっといんだよ、あの時間に。もうかなり前から。
 いつもお面かぶってんの。俺は女房と違って霊感とか無いけども、
 俺にも見えるってことは、あいつは幽霊じゃねぇわな。人間だよ。
 あいつは何かおかしいよ、それは俺でもわかるわ。よく考えてみなよ。
 あんな薄気味悪いのが幽霊だったらまだ納得いくだろう、幽霊とかって
 怖くて薄気味悪いもんなんだからさ。
 幽霊じゃなくて人間が、あんな時間にお面を被って一人ポツンと立ってる。
 これ幽霊なんかより怖いでしょ?
 それとね、あいつスカートとか穿いてるけども、あれ女じゃねえぞ。
 あれ男だ、男。俺ね、一度見てるんだよ、顔の一部を。
 あいつがお面を少し上にずらして缶コーヒーか何か飲んでるところをたまたま見たことあんだけど
 あれは女の顔じゃなかったよ。あいつ何だろね?意味がわからないから
 俺はあぁいうのが一番気持ちわりいや」


Kさん家の近所では結構有名な話らしいのですが、一体何者なのかはわからんみたい。

確かに、幽霊だったらどんなに奇妙でも「幽霊だからな」とまぁ怖いながらも納得できるが
生きている人間が毎朝五時過ぎに女装してバス停にお面を被って立ってるって幽霊より怖いかも。


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