[水恐怖症]
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体中が氷漬けになったように冷たい。
沼から這い上がって、どこをどう歩いたのか記憶にない。
気が付くと、自宅の玄関で子供みたいに泣いていた。
沼の水を吸った衣類を脱ぎ捨ててゴミ袋に詰め、シャワーを浴びる。
どんなに熱いお湯をかけても、背中が冷たい。
布団にくるまっても寒くて寒くて、我慢できずに元凶のS宅へ車を飛ばした。
Sも普通の状態じゃなかったのだろう。
鍵が開いていた。
扉を開けた瞬間、背中から何かが抜けたような気がした。
「おい!S!!」
ふらりと奥から出てきたSは、俺を見るなり真っ青になって震えだした。
ぶん殴ってやろうと手を伸ばして、Sの視線が俺の後ろにある事に気が付く。
「おまえ・・・水、ないのに・・・・・」
背後から生臭い匂いがした。
ここに1秒でも居たくない。居てはいけない。
目を瞑ってSを突き飛ばし、躓きながら部屋を飛び出した。

翌日、友人数人を誘ってS宅に向かった。
死んでいたら最後に会った俺が疑われるだろう。
妙に現実的な事を考えながら友人達に先を譲る。
やはり鍵は開いていた。
先に入ったやつが呼びかけているが返事は無いようだ。
上がるぞ、と声をかけて上がりこんでもまだ俺は部屋の外にいた。
「S!おいS!?」
慌てた声に、やはり・・・と溜息が出た。
自業自得とはいえ、最後まで面倒に巻き込まれてしまった。
「おい、なんだよコイツどうしちゃったんだよ。おい、俺が分かるか?」
様子がおかしい。どうも死体を見つけた雰囲気ではない。
覚悟を決めて部屋に入ると、友人達に囲まれてヘラヘラと笑い続けるSがいた。
目の焦点があっていない。
頭からグッショリと水を被ったように濡れている。
「シッカリしろ、S!」
ヒヒヒ、と壊れたSは笑い続けるばかりだった。
呆然と立ち尽くす俺の背後に、また生臭い匂いの気配が立った。
「ありがとうねぇ」

俺は、この一件依頼、海にも沼にもプールにも近づけなくなってしまった。


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