[ごうち]
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その土地はカンダ家の所有ではあるが、管理は集落で行っていて、そういったことは集落全体で
共有していた。
ただ風習はなくなっても、「ごうち」は集落の主に年寄りたちによって管理されつづけ、その
集落一帯が新Q地区となって再開発されるまで行われていた。
もともとカンダ家は集落一の地主であったのだが、農地解放で落ちぶれた。ただし落ちぶれたと
はいっても、かなりの土地は残り、バブルと再開発の影響で土地は高騰、しかし土地を手放すこ
とに抵抗していたカンダ婆さんの旦那(カンダ家先代)が亡くなると、カンダ氏は土地を売り、
それを元手に事業に手を出した。そのうちバブルも崩壊して、事業もだめになり、今はここに
いる。
「ごうち」であるが、そこだけはカンダ婆さんが売却にはかなりの難色を示し、周辺の家々か
らも売らないでくれと懇願されたので、そこと周辺の一部はわずかな土地ではあるし残した。

「そう言われてみれば」とカンダ氏も言った。「そう言われてみれば、子供のころは“ごうち”
の周りにあった雑木林で遊んだときは親父に酷く怒られたっけ。あと、“ごうち”の端を流れ
る水路でも絶対に遊ぶなと、何度も言われたな…」

「心配だったんですよ」とカンダ婆さんは話の最後に呟いた。

ウエノさんは帰りの車の中で「私にはちょっと手に負えないかも。アキバさん今日はお時間
取れます?」と聞いてきた。
アキバは大丈夫だと答える。
「それならW市に行って欲しいのですが」
W市とはQ町近辺の市町の中心的役割を果たす市である。
丁度よいことにカンダ氏宅からQ町に戻る途中に通ることもあり、寄り道するには好都合だった。

ウエノさんからW市で紹介されたのは、オオサキ氏という男性であった。
ちなみに、次から次へと霊能者を紹介されて、ぼられるんじゃないかとアキバは心配したそう
だが、そのときに、ウエノさんとオオサキ氏からきちんと説明を受けて安心したとのことだ。

結局その日は時間が遅いこともあって、翌日改めて現地へ向かうことになった。
そのときは俺も参加した。というより、させて貰った。
オオサキ氏は30そこそこで、背が高く端正な顔立ち、礼儀も正しく好印象であったが、それだ
けに全然霊能者らしくない。
彼はアキバの親父さんが分譲した区画と、ウエノさんが目星をつけた荒地(つまり、ごうち)を
見て回わった。見歩いている最中はまったく無言であったが、一通りめぐると口を開いた。
「社長(アキバのこと)、ちょっと協力していただきたいのですが」
「できることなら、なんでも」
「この土地と周辺の昔の形を調べられないですか?できれば戦前、少なくともニュータウンが
計画される前の状態が知りたいのです」
「できると思います」
「それなら、お願いします。ただし時間がない。急がせて申し訳ありませんが、至急お願いします」
その後、彼はウエノさんに言った。
「ここ、結界が張られていますね。分かりますか?」
「ええ、分かります。でも複雑な形に張られているようですね」
「どういうことでしょう?」と俺はふたりに聞いた。
「いえ、今ははっきりと答えられません。社長が昔のここ周辺の状態を調べていただければ、分
かってくると思いますので少しお待ちください」
とオオサキ氏は答えた。「それでは社長、分かりましたら至急連絡をいただけませんか。夜中で
もかまいませんので」

翌日、アキバはオオサキ氏に依頼されたことを早速調べ上げ、彼に連絡した。
そして、資料をファックスで送って欲しいというので送った。
結論が出ましたら、こちらから連絡いたします、とのことで、実際に連絡が来たのは5日後で
あった。
その間、オオサキ氏は彼なりに郷土史を調べたり、カンダ婆さんに会いに行ったり、新Q地区に
古くから住む人に話を聞いたりしていたという。
その間、幸運にも例の区画から死者は出なかった。

続く