[黒い貴婦人]

俺の妹は霊感が強い。
とゆうかそうゆう家系らしい。
俺が16の時だから妹が中2の時の夏だと思う。
もうすぐ夏休みとゆう時期だった。
勉強が嫌いとゆう理由でDQN高校に通っていた俺は、遅刻しているにも関わらず喫茶店で小説を読んでいた。
冷房のよく利いた店内は天国のようで、一歩外に出ればヒートアイランド。工事現場では汗を流しながら土方が仕事をしていた。
地獄の釜を開けた様なとはよく言ったもので、結構な酷暑でTVでも記録的とゆう言葉を記録的に安売りしていた。
こんなに熱い日はあらゆる異常が起こりやすいのかも知れない。
アスファルトの熱で歪んだ景色は現世との境目があやふやになっているのかも。
俺は結局学校をさぼりバイト先のファミレスへ向かった。
おばはん達の濁声の苦情に苦笑いを返しつつ、苦行を乗り越えた体で家路につく
駅前を通ると噴水に黒ずくめの女の人が腰掛けていた。
多分喪服だと思う。
キリスト方面の。顔が隠れるベール付きの帽子とドレス。
外人さんかな、と思いながら見ていると目があった気がした。
慌てて会釈をして通り過ぎた。
視界の端で、上品に微笑み会釈を返す黒い貴婦人の姿を見た気がする。
家に帰るとなぜか妹が玄関に立っていた。
妹はため息をつき、リビングへ消えた。

その日夢を見た。よく覚えてる


雷の鳴る豪雨の中を俺は必死に駆けていた。
青白い手が俺を追いかけてくる。
俺は必死に逃げ見知らぬ教会に逃げ込む。
なぜかもう大丈夫だと思いこんだ俺は罰当たりにも煙草をくわえた。
お気に入りのジッポライターに火を灯すと同時に稲光が走った。
一瞬の稲光が何かを照らす。
うわあああ!
俺は悲鳴を上げた。
立っていた影に。
血の気の無いような色白の肌。腰当たりまであるブロンドヘアーの下で、真っ赤な唇が清楚につり上がった。
歓喜の形に弧を描き、大きく開いた唇が視界を埋め尽くし、
そこで俺は目を覚ました。

寝汗がひどく、着ていたタンクトップが絞れそうなくらい濡れていた。



次の日もやはり学校をさぼり喫茶店で本を読みバイトへ向かう。
バイトが終わり帰る途中、近所の女と会った。
こいつは同い年で近くのケーキ屋でバイトしていた。
一緒に帰ることになり、他愛もない会話をしながら歩いていると駅前の噴水を通りかかった。
昨日と同じ位置に同じ格好で座っていた。
喪服だからか、このクソ暑いのに長袖だった。

やはり目が有って会釈をすると微笑みと会釈が返された。
俺は何となくいい気分で家に帰った。
愚かにも



家へ帰ると妹がリビングのソファーで横になっていた。
足下には飼い犬三匹が眠っていた。
うちは両親とも共働きで夕飯は俺が作ることになっていた。
しかしその日は珍しく妹が夕飯の用意をしたらしい。
テーブルの上にはすでにカレーが置かれていた。
珍しいな。遅くなって悪かったな。
妹はテレビのリモコンをいじりながら言った。
お兄ちゃんさあ



あんまり知らない人に関わらない方がいいかもよ

そのときは意味が分からなかった。
妹が意味分からないのはいつもの事なので聞き流していた。やはり俺は学校をさぼり喫茶店で三島由紀夫を読んでいた。
七時の閉店時間までコーヒーと軽食で粘り、外へ出ると辺りは薄暗くなっていた。
ポツポツと雨が降り出した。
ほんの小雨だった。喫茶店に置いていかれた傘を借り家路を急ぐ。
駅前の噴水を通りかかると、昨日と同じように喪服の女性が座っていた。
雨に打たれながら。

俺は立ち止まり、女性の上に傘をかざした。

女性がベールに隠された顔を上げる。
アップにした後れ毛がブロンドで、やはり外国の人だったかと思った。
続く