[ある殺人者の話]
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終身刑にでもしてもらい私の時間を終わらせてほしかった。
一人残った父親は私を恨んでいるだろう。
私がいなければ家族は幸せだったろう。
私は健二の父親の家に行くことにした。
殺してもらう事に期待を寄せて。

父親は期待を裏切った。
私に何度も謝罪し、私でよければどんな罰でも受けます。
そんなことを言っていたと思う。
期待に裏切られたことがショックだった。

最後に彼女の様子も見に行くことにした。
彼女は眠っていた。昨日病院に運ばれてからずっと眠っていたと思う。
部屋にいるのは二人だけだった。
「ありがとう。」
部屋を出ようとしたとき、手を引かれた。
彼女は先ほどと表情を変えず眠っていた。
私はまだ生きていたいと思っていた。

数ヶ月が過ぎ、女の子の命日の日に私はある家を訪れた。
「せっかく来てくれたんだ。出前をとったから良かったら食べて行って。」
父親は手を合わせていた私に向かって言った。
はやく済ませて帰ろうと思ったのだがせっかくなので食べていくことにした。
いろいろと話していたら、いつの間にか午前0時になっていた。
「今日は時間がたつのが早いね。良かったら今日泊まって行って。」
私は何故か帰りたくなかったのでその言葉はありがたかった。
その夜夢を見た。
あたり一面に花が咲いている場所に私はいた。
丘の上に四人の人影が見えた。
呼んでいる気がしたので私は丘へと向かった。
丘には仲に良い家族がいた。
一人の男の子が私に向かってきた。
男の子の顔は笑っていた。
あの事件がなかったらきっと楽しい時間を過ごしていただろう。
悲しい気持ちになった。
私がこの子の時間を奪った。
ツインテールの似合う女の子が私に向かってきた。
女の子も笑っていた。
この笑顔を見たらさっきまでの悲しい気持ちは何処かに消えていた。
女の子は私の手を握ってた。
家族はみんな笑っていた。
女の子の手はとても暖かかった。

昨日の夢は自分の都合の良い妄想のような気がした。
見た気もするし見なかった気もする。
朝食もごちそうになることになった。
「昨日不思議な夢を見たよ。」
私は夢の内容を聞かなかった。

「いろいろとありがとうございました。」
「こっちこそありがとう。」
「あの…迷惑じゃなければ来年も来ていいですか?」
「君からそう言ってもらえて嬉しいよ。私はいつでも歓迎するよ。是非来年も来てね。」

私は家を出た。
またあの夢を見たかった。
自分で都合の良いように作ってできた夢かもしれないけど、
また夢を見たかった。
来年は彼女も連れてこよう。きっとあの子も喜ぶ。
走って家に帰った。

私は走って帰った。夢を見て浮かれていたのか。
何故か早く家に帰りたかった。
家についたら留守電が1件入っていた。
留守電を聞いた。声が聞こえる。
その声が何を言っているかその時にはよくわからなかった。

病院につき彼女の両親から何が起こったのか聞いた。
車で運転していた彼女に軽自動車がぶつかってきて、
いま手術中だと言った。
数時間が過ぎ手術室から彼女が乗せられた台を引く看護士と医者が出てきた。
彼女には足が無かった。涙が出なかった。
私は病院のトイレに行き、顔を洗って鏡を見た。
「おはよう。殺人者」


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