[ある殺人者の話]
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「ちょっとトイレいってくんね」
そう言い彼女は席をはずした。
気のせいか。軽く風邪でも引いてるのかなと思ってガラス越しに見える風景を見ていた。
何故かその風景が怖かった。
なぜだろう。どこが怖いのだろう。いつもと変わらない風景なのに。
ガラスの壁に反射してファミレスの店内が写る。
私は凍りついた。
あの時、あの葬式の時、あの恐ろしい目。
何もかも壊してしまいそうな目。
健二がまっすぐ見ていた。あの時と同じよう瞬きもせず、ただまっすぐに。

その日昼食を食べた後すぐに車で彼女の家まで行きそこで日が暮れるまで過ごした。

自宅は7階建てのマンションの5階にある。
いつも階段で音を立てないようにのぼっている。ゆっくりと昇る。
毎日階段昇る人は試してほしい。結構運動になるから。
この日は疲れていたので階段でいくかそれともエレベータで行くか少しの間悩んだ。
こういう時こそ自分に甘えては駄目だと思い階段で行くことに決めた。
音を立てないようにゆっくり昇り4階に着いた。
あと一階だ。と思いながら5階に繋がる階段に向かった。
あと半分で5階というところでふと私の家のドアの前に人影がいるのが見えた。
誰だろう。友達かな?などと思いながら進もうとしたとき、人影が動いた。
月明かりに照らされた人影は健二だった。

何で。何でここにいるのか。どうして分かったのか。
こんなこと考えている場合じゃない。逃げようとしたとき自分の体の異変に気づいた。
足が思うように動かなかった。人影はそんなこと気にもしないでどんどん近づいてくる。
階段に隠れるようにしゃがみ4階へと続く壁にひっそりなんとか身を寄せた。
健二は階段ではなくエレベーターで降りようとしていた。
エレベーターが5階へと向かい始める音が聞こえた。
私の心臓が大太鼓のようにドンドンなっている。
その音が健二に聞こえてしまう気がした。
『チンッ…』
エレベーターが5階につき音が鳴った。
永久に続くかと思われた時間が動き出した。
エレベーターが5階から1階に向かい始めた。
ふと無意識にエレベーターの方を見てしまった。
気のせいか。健二と目が合ったような気がした。

その日も夢を見た。
私が健二を金属バッドで殴っているのだ。
何度も。何度も。

家が何故か知られてしまったので気軽に出かけることができない。
それでも空腹は待ってはくれなかった。
冷蔵庫は一時間前に見て何も食べるものがないことは分かっているので他を探す。
インスタントラーメンあったっけな。などと言いながら食器棚を探す。
普段は健康のため自分で料理をするのでインスタントラーメンなどあるはずもなかった。
しかたなく友達に昼飯奢るからと電話し、向かいに来てもらい食事をとった。
その日は家に帰る気がしなかったので友達の家に泊まることにした。
次の日は大学の講義に出ないといけないので一回家に帰らなければならなかった。

続く