[向こう岸に立つ女]

去年の夏、千葉県の銚子に転勤した友人Yを訪ねて行った時の事です。

Yのアパートは利根川沿いの比較的静かな場所にありました。
部屋の窓からは河口付近の広々とした河の風景を見ることができ、昔から大きい河の近くに
住んでみたいと思っていた私にとって、なんとも羨ましい限りの環境でした。

夕刻になり、思い出話や雑談も尽き、私はぼんやりと窓の外を眺めた。
そういえば向こう岸は茨城県なんだなあ、と思いながら見ていると、あちら側の川岸に誰かが
立っているのに気がつきました。

よく見えないのですが、かろうじて女の人であることだけは分かります。
私が窓際を離れるまでの一時間くらいの間、彼女はずっと同じ場所に立っていました。
その時は、さほど気にならなかったのですが・・・・


私は東京での私用の為、Yの家に4、5日泊めてもらう事にしました。

翌朝、少し遅い時間に起きた私は換気も兼ねて窓を全開にし、河の景色を眺めました。
するとまた、あの女の人が川岸に立っているのです。
次の日も、そのまた次の日も彼女はそこに居ました。
よほど河を眺めるのが好きらしい。
私もその気持ちが分かるので、なんとなく彼女のことが気になりはじめたのです。
いったいどんな人なんだろうかと興味が湧いてきました。

私は、どうにかして彼女を近くで見れないものかと思案しました。
しかし向こう岸へ渡るには、近くに歩いて渡れるような橋もありません。
あるのは銚子大橋という、車でしか渡ることの出来ない橋のみです。
わざわざ遠回りして見に行くのは流石に気が引けたので、仕方なくそれは諦めることにしました

続く