[ババさまの祠]
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両親と兄ちゃんが帰ってきてからは、神社で本格的な話し合いが始まった。
「あれはいかん。早いとこババさんにあずかってもらおう」ということを母が話すと、
「もしかしたらババさんでもあかんかも」という答えが兄から返ってきた。
俺は黙って聞いてた。
話によると、あの少女はやっぱりこっちの地方の霊ではないらしく
昔先祖が張った結界(この結界の中にいたらババさんのところに自動的に誘導されるらしい)
も効かない、きわめて強い霊だという。
正体があまり分かっていない分、俺ら家族(というか4人)はもう一度結界を貼ることにした。

そのときに姉ちゃんが「あ」と声を上げた。
妹が「昨日の女が来た!」と叫んだ。
女は確かに赤いワンピースに、前見たときより比較的、髪の毛はまとまっているまともな格好をしてた。
ただ今日だけは、神社のところに祭っている箱みたいなものに石を投げ出した。
父ちゃんが「やめろ!キヌを置いて行け!キヌを!」と女に向かってみたことも無いような形相で叫んだ。
後から聞くと、キヌは少女の名前らしい。少女が名乗ったと兄ちゃんは言ってた。俺は聞こえなかった。
女は一目散に逃げ出した。

女は祠のほうに向かっていって、祠を必死であけようとした。
祠があいた。初めて俺は祠の中を見たけど、こけしみたいなのが入ってた。
「見るな!見ちゃいかん!」と父は言い、
母はまた「カルヅゲタマが知ると、オンヌシが黙ってはいないぞ」みたいなこといった。
(この言葉については「継がんやつには関係ない」といって教えてくれない)
女はうめきながらこけしを撫でている。父と兄ちゃんが取り押さえて、
「アキとさつきは神社へ行け!ババさまにお願いしてくれ!」と母が叫んだ。
俺と妹は走って神社に行って、何も考えずババさまにお祈りした。
すると妹がやけに泣き出した。
「ふぃ、ひゃあ、ぎゃえgcrんxc」と訳の分からないこと言って
「呪うぞ」と妹からは聞いたことの無いような低い声でつぶやいた。

俺はもう怖くて怖くて、本当に大泣きしながらババさまにお祈りした。
妹はときどき白目を剥きながら、「のろう」という言葉を交えつつ叫んでいる。
俺の家の神社は山の上のほうにあるので、人は誰も来てくれなかった。
そのとき、さすがに霊感の無い俺でも分かった。
妹が俺の背中を引っかくときに、なにかが俺の髪をひっぱった。
妹の手は両手とも背中にあるから、妹ではない。
そして「受け止めた」か「いけるとみた」みたいな言葉が聞こえてきて
妹が倒れ、俺もなぜか身体が軽くなった。
そして母が「終わった」と言って、「さあ、さつきを連れて行って」と、どこかへ歩いていった。
さつきはもう意識を取り戻したようで、「自分でいける」と言って俺と二人で歩いて家まで行った。

俺はまだ半泣きだったけど、妹も両親も、兄も姉も意外と平気な様子で、
その日の晩御飯は普通の白い飯だった。


あのときに助けてくれたのはババさまでは無いらしい。
あの女がどうなったのかも、誰も俺と妹には教えてくれなかった。
ただあの女が神社に来ることは二度と無かった。
ババさまの祠はというと、今は別の場所に移されて、
相変わらず近づいてはいけないといわれている。
母も父も兄も姉も「忘れろ」とだけ俺に言う。

あと、ババさまはあくまで呪い関係の神様らしく、あまりいいものではないようです。
あのあと母が何度も本家に行って、同じようなこけしを目撃したので本家が処理してくれたんだと思う。


これでおしまいです。
俺の中ではまだ決着ついてないんですが家ではこの話題はタブーになってますorz


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