[うろつく人形]
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とんとん・・・・・
扉を叩く音が聞こえた
小さくて強くなく、弱くないその程度の音だ
とんとん・・・・
少し間が空いてまた扉を叩く音がした
誰かいるのかな?と思ったけど、何故か動けなかった
恐いとかそういうのはないのだけど、動けなかったんだ
とん・・・とん・・
音がさっきよりも弱く鳴って
それきり音がしなくなった・・・・

同じ班の奴らのいびきや寝言しか聞こえなくなってから
俺はさっきの音が気になった
なんですぐに確認しなかったんだろう?と今でも思うんだが
音が聞こえてから聞こえなくなるまで何かに見とれるような・・・・
そんな感覚でぼーっとしてたのは憶えてる
さすがに結構時間過ぎてるし、もういないだろうなあっと思ったときに気づいたんだ
何かが足りなくないか?って・・・・
だってこういう旅館では普通、スリッパを履くだろ?
あれって歩くと音がすごく目立つんだよ。ゆっくり歩いてもペタン、パタン、って
そんな感じの音がしてしまうんだ。
なのにノックの音が止んでから今までそんな音はしなかったんだよ
でもそのことに気づいたときには遅かった・・・・
俺はさっきのノックの音が気になって扉の前まで歩いてたんだ
足音がしなかったことに気づいて、ドアノブに手を伸ばしかけてたのを止めたそのとき

とんとん・・・・・
またノックの音がした
近くまで来たせいか、さっきよりはっきりと音が聞こえた
恐くて、ドアノブに手を伸ばしかけていた状態のまま
俺はその場で立ち尽くしてた
そしたらまた
とんとん・・・・
とんとん・・・
とん・・とん・・・
今度はさっきより間が少ない感じでノックがした・・・
音が止んでも、やっぱり歩く音は聞こえなかった
それでつい、俺もドアを叩いてみたんだ
コンコン・・・
木造だから俺が叩いたらそんな音になった
だけど何の反応もない
それで俺は鍵を開けてドアを開けたんだ
だけどそこには誰もいなかった
気になって廊下に顔を出してみると誰かが角を曲がったような姿を見た
こんな時間に?誰が?何で?
俺は気になって誰か知らないけど、その姿を追ってみたんだ

このときに止めておけばよかったんだ
誰かがいた、誰かが角を曲がった、それをわかってて
そっちにばかり気を取られて
足音がしてなかったってこと、気づかなかったんだ・・・・・
何故かその誰かの姿は廊下の角を曲がるところや階段を下りてるところしか見えなかった
ちょうど手足が見えなくなるというタイミングで姿を確認できてた・・・・・
そうこうして誰かの後を追いかけてみると浴場の前まで来ていた
階段を下りて角を曲がったところに浴場はある。角を曲がったところまでは
見えてたのに、そこから姿は確認できなかった・・・
左側には男女に分かれた浴場、右の方は売店と暗くて長い廊下しかない
それで浴場の方を見てみると、かすかに明かりがあった
どうやら脱衣場と浴場で電気のつけるやつが別れてるらしく
見た感じ浴場の方だけ電気がついてるみたいだった・・・
脱衣場に入るところの手前に電気をつけるスイッチがあるみたいで
脱衣場の方にも明かりをつけようと思ってスイッチを押すが電気はつかない
ON.OFFを数回繰り返して、浴場の方も同じようにON.OFFを繰り返してみる
すると浴場の方は消えたりついたりした
どうやら脱衣場の蛍光灯が切れてるらしかった
それで俺は誰かが消し忘れたんだな、と思って浴場の電気を消して部屋に
戻ろうとしたんだが・・・
カラァン・・・っていう音が脱衣場、いや浴場の方から聞こえた・・・・・

桶が倒れるような音。
そのあともカランカラン、と桶か何かが転がってる音がしていた・・・
昼間のことを思い出して、まさかその娘さんが浴場で水死したとかそんなことはないよな?
そう考えたりした。けれどこんな真夜中にそれに答えてくれる人がいるわけもなく
俺は浴場に行こうか行くまいか悩んでいた
そうしていたら
浴場の脇に設置されていた自動販売機の光が消えた
非常口と書かれた天井と足元に設置されている非常灯の明かりしかなくなった・・・
それでね。明かりがそれしかなくなって不安になってたら
足に違和感を覚えたんだ
誰かがズボンの裾を引っ張ってるような・・・・
ちょうど子供が服を引っ張るような・・・そんな位置だった
足元には非常灯があったから、何が足を引っ張ってるのか確認できることに気づいたんだ
だから俺はおそるおそる足元に視線を向けた
そしたらね、その非常灯のあるところにあの赤い着物を着た人形が置いてあったんだ・・・・
続く