[呪いの暴走]
前頁
彼らの不満や苛立ちはどんどんたまります。
まさに自業自得なんだけれども、自分たちの先祖が積み立ててきた功労が失われていくのを見るのは、さぞや無念だったと思います。
そして呪術師のリーダーが位を剥奪されたことで、怒りが限界に達したらしく、とうとう内乱が始まってしまいました。
古代の呪術によって悪霊や生霊をけしかける呪術師たち。
自然の神々の力をかりた結界をはることで呪い返しをする祈祷師たち。
一族の殺し合いによって、たくさんの人が呪い殺され、処刑されました。もちろん一族以外の人もたくさん殺されました。
また、高度な呪詛や自然の神々の天罰によって大地震や大干ばつといった災害が多発し、それが元で大飢饉が起こり、
そこでも数え切れない人々が餓死していったそうです。
繁栄は、あっという間に終焉を迎えました。
「その話が、僕と何か関係があるんですか?」
話の区切りがついたところで僕は聞いた。
「大ありだよ。君は、祈祷師と豪族の間に出来た子供の末裔なんだから。」
事態が全然飲み込めなかった。完全に自分の理解の範疇を超えてしまっている。
いや、そもそもこんなオカルトチックな話なんか簡単に信じちゃっていいのだろうか?
僕は、こんな時どうすればいいのか対処法が分からなかった。
「どっかの馬鹿がさ、掘り返しちゃったんだよね。封印されていた呪詛を。」
聞けば、さっき追いかけてきたあれは、呪術師の使う呪詛の一種なんだそうだ。
「人を呪えば穴二つってことわざ知ってる?呪いって失敗すると呪った相手のところに帰っていくんだよ。でも呪いをかけた奴は、はるか昔に死んでるわけだ。
ゆえに呪いは、また君のとこに戻ってくる。何度でもね。」
血の気が引いたのが分かった。あんなのがまた戻ってくる?しかも何度でも?
冗談じゃない。本当に洒落にならないほど怖かった。
「だから君を助けに来た。」
少なくともこの人は味方ってことだけは分かった。おっさんは、自分は式神みたいなもんだと言っていた。どうして僕のことを知ってるのか聞くと「式神だから」としか答えなかった。
「とにかく今回は初めてだったし、僕も地理的に分からないことだらけだったから、探すの遅くなっちゃったけど…。
次からはもっと早く助けに来る。だから安心なさい。
(時計を見ながら)まずいな、だいぶ話し込んでしまった。君はもう帰りなさい。親が心配する。」
おっさんは「ではまた。」と言うと、僕に背中をクルっと向けて、
カツカツと革靴の音を鳴らしながら何処かに行ってしまった。
夜風が、あっけにとられている僕にいつまでも吹きつけていた。
これが僕とマセラティおじさんの最初の出会いだったのだ。