[エスカレーターの母娘]
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仏壇に彼女の大きな写真が、そして線香が焚かれていた。
俺はマジで混乱して、どういうことか把握できなかったから
「どうしたんですか!」と叫んだ、叫んですぐさま思ったのは、

「自殺したんだろう。」

案の定、入院先から逃げ出し街まで出てとある雑居ビルから
飛び降りたらしい。

その時のことは、正直俺も記憶が今でもあやふやだ。ショックだったし
なにより、やり直すつもりでそれなりの覚悟をしてたからだ。

理由を彼女の母親に尋ねるも、病院に入院していたこともあり、
精神的なものだとしか聞かされなかった。

結局、日も限られていて、墓参りをした次の日には東京に戻り、
その一週間後にはまた自分の留学先に戻った。

留学先の自分の屋根裏のアパートに戻ると、手紙が届いていた。
なんと彼女からだった。正直、生まれて一番びびったかもしれない。

封筒を開けると、酷いものだった。錯乱していた。辛うじて内容は
つかめたが、本当に荒れた字だった。

わたしはしぬ。あれからずっとおいまわされてる。
げんじつにもゆめにもずっと、あのおとと、あのふたりがついてくる。

読める範囲で理解できた言葉はそれだけだった。
ただ、デッサンが同封されており、なんてことは無い俺のアパートの
丸窓だった。

俺はあまり泣かないほうだが、この時ばかりは泣いた。
15年ほど前にオヤジが死んだときも泣いたが、それ以上に泣いた。

それを機に、急遽帰国して今に至るわけだが。

帰国する前に、他国へ留学した画学生の国に
遊びに行った。

相変わらず飄々としていたが、起こったことをすべて話すと
「黙っていたことがある。」といって語り始めた。

なんでも彼女が、俺の家に初めて来て以来、ずっと変な親子に
付きまとわれていたと言うこと。
なんとなくは予想していたが、当時は、本当にそんなことがあるとは
思いもしなかった。思えば、付き合った半年、後にも先にも彼女は
その一度しか家に泊まっていなかった。

俺にそれを黙っていたのは彼女の思いやりらしく、その画学生の友人も
約束を守り続けていたらしい。

続く