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つい最近です。
突然Iから電話があり、「話がしたい」ということで、駅前まで呼び出されました。
以下はその時の会話です。
I「前、爺ちゃんのとこ行ったの覚えてるか?」
僕「山行ったやつだろ?」
I「あれから、いろいろ調べたんだよ」
I「神様の棲むところに何か悪いものを持ってってなんとかしてもらうってのは、俺たちのとこだけじゃなくて、結構いろんなとこであったらしい」
I「でも、それだけじゃなかったんだ。昔の人は、神様のとこに何か持ってく時、必ず見返りになるものを用意したらしい」
僕「見返り?」
I「生け贄だ。兎だったり犬だったり、人の子供だったとこもある」
I「もっとすごいとこじゃ、わざと子供を殺して、何かにその血を塗って、神様のとこに持ってったりしたらしい。ヤバい時に備えて、ってことなんだろうな」
僕「それじゃ、逆に天罰が下るんじゃないか?」
I「俺もそう思ったんだけどさ。子供を殺した奴は、殺した後に使った刃物で死んだらしい。それでチャラってことにしたかったんじゃないか?」
I「で、神様のとこに行く奴が死んだ子供と、血を塗ったものと、殺した奴が使った刃物を持ってって、後になって血を塗ったものだけ取りに行ったんだってよ」
何と言っていいか分かりませんでした。
I「そんで、山行った次の日、俺調べ物があるって言ったろ」
I「あん時、家と寺の蔵にこっそり入ったんだ」
I「いろいろ本とか巻物とかあったけどさ。まあ古いし字も昔のやつでさ、ほとんど読めなかったんだ」
I「でも、ほんの少しだけど挿絵があったんだ」

I「あの池と、鉈と、小さい玉だった。あのビー玉だよ」
祖母が「竜神様の話はしない」と言っていたのを思い出しました。
I「図書館とか史料館にも行ったんだ。子供が死ぬなんて昔は珍しいことじゃなかっただろうけどさ。俺ん家と他の幾つかの家は、つい最近まで十数年に一度、産まれたばっかの子供が死んでんだよ。だいたい同じくらいに身内とか近所にも不幸があったみたいだ」
僕が小さかった頃、叔父の産まれたばかりの三男が亡くなり、次の日に近所のおじいさんも亡くなり、同時に告別式をやるということがありました。
おじいさんの棺には皆で花を入れたりしましたが、三男の棺は一度も開かれなかったと思います。
I「俺さ、親とか爺ちゃんに結婚したら故郷戻ってこいって言われてんだけどさ」
I「…絶対に戻んねえわ」
僕も似たようなことを祖母に言われたことがあります。
「仕事が見つかんなかったらね」と言い続けてきましたが、考えを改めなくてはいけないかもしれません。
「近付くでないぞ」
「今もやってんのは、もしかしたらここだけかもしれんなあ」
この言葉が、今ではひどく不気味に思えます。


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