[刀]
前頁

これはつまごいとその人が勝手に呼んでた刀の話
実は二度ほどその人のコレクションを拝見させていただいたんだが
一度目には鞘にはいったままの姿を俺も目にしてる
丈はおそらく刀身で四尺三寸余きつめの反りをもつがけして鈍く見えない野太刀
鞘から抜いた姿は俺自身はついぞ目にすることは出来なかったけどな

彼はその野太刀を無銘だけどつまごいと呼んでいた
徴発されるまでは戦時下の頃につぶされた神社に奉納されていたものらしい
江戸の頃に書かれたものだろうという添え書きには
以下のような事が記されていたそうだ

この刀を打った人というのは大層信心深かった人で
各地の神社やらが奉納刀を求めたときくといてもたってもいられず
家内を疎かにしてまでもひたすら刀を打ったんだそうだ
そんなんだから奥方から三行半つきつけられたというだめ亭主
ところがこの男離縁されてはじめて奥方のことを想うようになり
刀のことすら考えずに復縁を迫ったんだと
ところが相手は素っ気ない
そのうち月日が流れてすっかり心身病んだこの男
ある日突然すっかり鍛冶からはなれてたんだが刀を打ち始めた
それからしばらくして復縁を迫りにもこなくなった事を不思議におもった元奥方が尋ねてみると
焼き入れが済まされていない刀と一緒に無残な姿の男がみつかったそうな

これを聞いた別の鍛冶があまりに不憫だとして焼入れを済ませたのがこのつまごいで
形見として受け取った元奥方はある日突然この刀で白昼堂々自刃したという
この時の様があまりに恐ろしげであったことからいわくがついて
祀られるようになったんだと


で話はまだまだ続く
自刃したのは何もその元奥方だけではなくて
嘘かまことか神社に奉納されたあとも巫女が自刃を遂げる等
自刃にまつわる話が後を絶たなかったらしい
自刃してしまうのは総じて女性
巡りめぐってそれが彼の祖父の手にわたったわけなんだけど
祖父さんていうのは豪気な人で一笑に伏していたんだそうだ
ところが彼の祖母も自刃をその刀で遂げてしまった
曰くが本物であったとなってからは
雇い人に手入れはさせても自分ではけっして触れないようにと
これが第一の家訓となって
彼も家を継ぐ際に父親からもきつく言い含められたそうな

さてここまで聞くと俺の声は震えたね
実はこの話を聞いたのは二度目に彼のコレクションの見納めとして訪れた時の話だったんだ
彼は全てのコレクションを手放さざるをえない状況端的にいって破産したわけさ
「じゃあひょっとして 今ないのは?」
って俺が聞いたら
「どうしても欲しいという方がいてね、やむなく売った。」

2chでは俺でとおしてるけど実は自分女なんですよ
これを聞いてからというもの必死でお金を貯め続けてたりするわけです


次の話

Part153menu
top