[MDの幽霊]
前頁

お化けがいると判った以上、一刻もそこにはいたくない。
ふと我に帰り、Hさんの顔を見上げ、二人で 「ワァァ〜ッ!!」
と悲鳴を上げながら一目散にMDに逃げ帰った。
MDに逃げ帰ると、その日の製造担当だった先輩であるKさんが、
息を切らしてハァハァ言っている俺たちを見て 「どうした?」 と尋ねてきた。
するとHさんがKさんに今起きた出来事を説明してくれた。
その後、一通り話を聞き終えたKさんはとんでもない一言を口にした。

「よし!今からもう一度行ってみるぞ!」

「はぁ?・・・」

恐怖を感じて逃げてきた現場にもう一度戻れと言うのだ。
俺はすかさず 「嫌ですよぉ(泣)」 と応えた。するとKさんは

「もし泥棒だったらどうする?今この会社には俺たちしかいないんだぞ。
俺たちで捕まえなくちゃいけないんだ!」

と言うものだから、しぶしぶ3階まで戻ることにした。

今度はKさんもいるので前よりは幾分心強い感じがしていた。
3人ともほふく前進をするような姿勢で、階段の踊り場の一歩手前で這いつくばっていた。
3階の踊り場付近は相変わらずシーンと静まり返っている。物音一つしない。
3人ともお互いの顔を見合わせて、固唾を呑んで息を潜めていた。
泥棒がいるのであれば気配を感じるはずだ。だけど、そういった気配はしていない。

静かなことに安心したのか、Kさんが目で突入の合図をした。
そこで3人一斉に厨房へ足を踏み入れようとした・・・その時!!!!!!!!!

「うっ、ううぅぅぅ・・・うっうっうっ・・・ううぅっ」

「!?」

「ううっ・・・うっ・・・・うっ・・・」

「!!!!!!!」


絶妙なタイミングで女の人のすすり泣きが聞こえてきた。

その場にいた3人とも背筋に冷たいものが走った。
それぞれにその声が聞こえているのか、お互いの顔を見て伺った。
全員が驚いた表情でそれぞれの顔を覗き込んでいることから、
その声がその場にいる全員に聞こえていることはすぐに理解できた。
そこに存在するはずのないものが存在している恐怖を3人とも感じていた。
お互いの目を見て、全員にそのすすり泣きが聞こえている事実が理解できた途端!

「わああぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!!」

と悲鳴を上げて一斉に階段を駆け下りて逃げた。

話はそれだけなんだけど、後日Kさんが戸締りをする総務部の主任に

「Sが幽霊を見たって言うもんだから、この間Hを含めた3人で 見たっていう現場に行ってみたんだけど・・」

と話し始めると、

「あぁ!3階でしょ?」

と、あっさり階数まで当てたのには驚いた。
どうやら戸締りをする人の間では、3階の幽霊は有名な存在だったようだ。

そのビルも倒産の影響で取り壊されて、今は新しくホテルが建てられた。
そのホテルの3階で、彼女が今もすすり泣いていなければ良いのだが・・・。


次の話

Part151menu
top