[MDの幽霊]

今から20年ほど前の話になるけど、
当時俺はA県A駅の駅前にあるミスタードー○ツに勤めていたんだ。(以下MD)
MDが入っているビルは4階建てで、一階にはMDとラーメン店、2階はレストラン、
3階には和食の食堂とお座敷があり、4階には居酒屋と従業員の事務所や更衣室などがあった。
そのどの店も一つの会社で経営されていたので、いわゆるテナント形式とは異なる感じだった。
食べ物を扱う店の集合体といった感じのビルだった。
MDも全国チェーンではあるけど、フランチャイズ形式なので、
俺の勤めていた会社で権利を買って経営していたようだ。

MDは24時間営業なので夜勤もあるわけだが、
その他の店は当然ながら夜になると店じまいをする。
守衛などは雇っておらず、会社の総務部の主任が毎日ビル内の戸締りをチェックして、
従業員玄関の鍵を内側から掛け、MDのカウンターから退社するのが常だった。
あとは24時間営業のMDで働く人たちしかいない。

ある日、俺は非番で暇を持て余していたので、管理職のいない深夜のMDに遊びに行った。
当然のごとくMDで働いている従業員とお客さんしかいない時間帯。
そこに行けばただでコーヒーが飲めるうえに仲間とお喋りができるから、いい暇潰しになると考えたからだ。
時刻は0時少し前。ちょうどその時間から朝の8時までのローテーションがあって、
その日は俺より2つ年上の大学生アルバイトのHさんの出番だった。(ちなみに俺のことはSとしておく)

Hさんは2つ年上だったけど、俺に優しく接してくれていたのでとても慕っていたんだ。
Hさんが着替えをしに4階まで行くというので、俺も付いて行くことにした。
着替えている最中も、カーテン越しに他愛も無い話をしながら着替え終わるのを待っていた。
着替えてから1階に下りる時に、俺はふとした悪戯を思い付いた。

3階の階段の踊り場から和食の食堂の厨房が覗けるのだが、
俺はその厨房を覗き込んで、「今、お化けがいた!」 って言ってHさんを驚かせてやろうと思い立った。
階段を俺が先頭になって降りて行った。頭の中は悪戯のことでいっぱいだった。

覗き込んですぐに 「お化けがいた!」 って言ったのでは信憑性に欠けるな。少し間をあけなければ・・・
などと思いながら階段を降りて行った。悪戯が大好きな俺はワクワク気分で厨房を覗き込んだ。
誰もいない厨房の中は真っ暗だったけど、中には色々な機械があって、冷凍庫みたいな機械のパイロットランプが点灯していた。
階段の明かりも手伝って、おぼろげながら中の様子が見えていた。

当然だけど辺りはシーンと静まり返っている。
そのパイロットランプで少し明るくなっている機械の前を、
両手を真っ直ぐ前に突き出し、手首から先をダラリと下げた黒い人影が横切ったのが見えた!!!
距離にして俺から3mくらい離れていただろうか、ビル内で人がいるのはMDだけのはずなのに・・・・・・・

『・・・お化け・・・?』

“嘘から出たまこと”とは、まさにこの事だ。俺はいま自分の目の前で起きた出来事がうまく飲み込めないまま、
一瞬たじろいだ。そばにいたHさんの方を振り向き、「今、お化けがいた!!!」 って呟くように話すと、
俺の言った言葉を信じてくれたのか、Hさんの目がみるみる大きく見開かれ、驚いているのが表情で分かった。
驚かせて喜ぶつもりだったけど、全然そういう気分にはなれなかった。
驚きと困惑で何をすれば良いのか判らない状況だった。

続く