[居酒屋]

それは・・・・私があと三日で会社を定年退職する、という時の事
でした・・・・
 
 その日、同僚のSさんと一緒に飲もうという事になりました。いつも私達が帰り
に寄る辺りではなく、別の駅で降りてぶらぶらしながら店を探していました。
私は会社をやめた後は息子夫婦と同居する事になっていたので、途中で
孫の為におもちゃを買ったのです。それで、Sさんと一緒に何処で飲もうかと
話していたのですが、私は何故かビルの間にひっそりと建っていた一寸、
こう言っては失礼かもしれませんが小汚い店へ入ろうという気になったのです。
なぜそんな気になったかは分かりませんが、何故かこの店が私を呼んでいる、
というような気がしたのでした。それでSさんも別に反対しなかったので、その店
に入ろうという事になったのでした・・・・

 その店へ入ったら、客は私らの他に誰もいず、不気味な感じがしたんですが
まあ、静かでいいや、といつものようにビールを注文して飲んでいたのです。
店の親父も何か生気が無いような感じで、私も何か言いようの無い感じ、誰か
にじっと監視されてでもいるかのような気配を感じたのです。気持ちが悪くない
という事は無かったのですが、どうせもう年寄り、どうなろうと知ったこっちゃない、
とかまわず飲み続けたのです・・・

 そうこうしている内に、まだ瓶で一本しか飲んでいなかったのですが、気分が
どんどん悪くなってきて、もうこりゃたまらん、という気になったので、一緒に飲んで
いたSさんにそろそろ出ようかと言い、Sさんもすぐにそうしましょう、といったので
勘定を精算して店をでたのですが、その嫌な感じは、店を出てからも私に付いて回りました。
それで、Sさんにこの事を話した所、実はSさんも嫌な視線を感じていたという事です。

 今までまったく霊体験のなかった私は、一体何なのかとますます気分が悪くなり、
すぐに帰宅しようと早早にSさんと別れたのですが、その後すぐ、子供の声が聞こえた
ような気がしたのです。まだそんなに遅い時間ではなかったのですが、それにしても
子供の声が今ごろ聞こえるとは解しかねる。そう思ってあちらこちらを見回して
みたのですが、子供の姿など全然見当たりません。なのに、声はまだ聞こえるのです。
耳を澄ましてみますと、五歳ぐらいの男の子の声で、「おじいちゃん・・」とか
「僕にも頂戴・・」等と言っているのです。

続く