[居酒屋]
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私は逃げるようにしてタクシーを捕まえて飛び乗り、しばらくは恐怖に震えていたのです。
運転手は少し怪訝そうに私をバックミラーで眺めているようでしたが、私が少し落ち着いた
と見るや、「早速どうしたんですか」と聞いてきました。私は先ほど起きた出来事を包み隠さず
運転手に話したのです。すると、運転手は「ああ、そうだったんですか・・・・実はあの店の
店主にはお孫さんが一人いたんですがね。その息子夫婦というのが酷い夫婦でね、息子、
つまり店主の孫ですな、を虐待していたんです。そのお孫さん、K太といったかな、を殴る蹴る、
という事を普通にしていて、家から追い出してしまう、という事もやってたんです。そうしたら、K太
君は家の近くの、あの優しいお祖父ちゃんがいる居酒屋へ逃げ込む、という事をやってたんですよ。」

 「それは酷いね。」私は言いました。「ええ、ですが、まだ酷いのはここからでね。ある日よっぽど
K太の事が気に障ったんでしょうな。いつものようにK太を家から追い出した後、父親が、あそこの、
例の居酒屋まで追いかけてきて、K太君を殴り殺してしまったんですな。それを見た親父さんは精神
に異常をきたして入院してしまい、間もなく自殺。その店は誰も借り手が無くて
廃墟のようになってしまったんですよ。」

 そこまで聞いて、私はハッッとしました。
「えっ、そんな、だって、私はさっきまであの店にいたんですよ!」
「ええ、あなたの事が羨ましかったんでしょうな。ついつい呼び込んでしまったのでしょう。」
私はそう言われてそうとう怖くもあったのですが、何分今まで霊など見たこともないので、運ちゃん
に対し反発も感じ、「なぜそんな事が分かるのですか!」と、少々食って掛かりました。
すると、運転手は「私ね・・・生まれつき霊感が強いほうでね・・・・見えちゃうんですよ。」
「だから何がですか!」私はほとんど叫ぶように言いました。
「ほら。」
運転手は前をみたまま後ろを指差しました。
「ついて来ちゃったようですね」
私が急いで後ろを振り向くと、そこには顔面痣だらけで右目が殆んど潰れている子供の顔と、あの、
陰気な店の親父の顔がガラスに張り付いていました。

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