[おんぶお化け]
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それが幽霊であろうが生身の人間であろうが、俯せの状態で何者かに背中に乗られて自由を拘束されるのはイヤなものである。
隣の部屋にいる家内に助けを求めようとしたが、例によって声が出ない。
経験でこのような場合になんとか声を出す「コツ」を知っているので大声で家内の名を呼んだ、
つもりが実際には押しつぶされたガマガエルのような情けない小声である。聞こえないのだろう、家内はやって来ない。
金縛りに遭遇したら、どこでもイイから体の一部分、例えば足の親指を動かせば瞬時にそれが解ける。
何かの本で読んだ知識だが、これも俺がそうした時に使う「コツ」である。それで金縛りからは解放されたが、
子供に乗っかられた圧迫感がしばらく背中に残っていた。

今起こったことを家内に話そうと隣の部屋へのドアを開けると、彼女は寝ていた。
起きてきてから話すと、情けない俺の声が彼女を呼ぶのは聞こえたのだが
夢だと思ったのでそのまま寝続けたということであった。「座敷童だったらイイのにね。」
座敷童というのは田舎の旧家に住み着いてその家に繁栄を齎すものだから歓迎だが、生憎ここは去年越してきたばかりのマンション、
しかも場所は大阪のど真ん中である。望むべくもないが、俺たちはそんなことを言いあいながらその場はそれで終わった。
そのことがあってから数日後、家内が「今ヘンなの見ちゃった。」とこんな話をしてきた。

昼間彼女が自分の部屋にいると、いつもはそんなことはしないのだが何かフと気になったのでドアの方をみたという。
オーク材で出来たドアには縦に二枚の磨りガラスが嵌め込んである。そのドア越しの向こうのリヴィング、即ち俺がオンブお化けに遭遇した部屋だが、
そこを玄関に向かうドアの方に歩くように横切る白い影が見えたと言う。はじめは当然俺か、または飼っている犬のラッキーだと思ったらしい。
だが俺にしては小さいし(だから俺がふざけて這って移動しているか若しくは俺の下半身だけ見えたと思ったらしい)、ラッキーも白い犬ではない。
磨りガラス越しに、霊のような影というよりは生身の子供が普通にドアを開けて出て行こうとするように見えたという。
きっとこの前の子供に違いない、ということになったのだった。
以後、別にこれと言った異変はないが、俺がMacでエロ動画を見ている時には、いつもあの子供達が俺の肩越しにPCの画面を覗き込み、
一緒に楽しんでいるのではないか、そんな気がするのである。


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