[河原にて]

川原を散歩してたら、草むらの中からオッサンが出てきた。
Tシャツと短パン着た汚いハゲのオッサンで、私と目が合った瞬間に
腕を掴んで草むらに引きずり込んだ。
1メートルくらいの高い草むらなので、屈むと外からは見えなくなる。
私が声を上げると、オッサンが手に持った包丁を見せて来た。
「声出すな、殺すど。」
近くで見たオッサンは、目が死んだ魚みたいで狂ってる気がした。
半ベソでガタガタ震えていると、オッサンは私を草むらの奥に向かって
ズンズン連れ込んで行く。
向こう側は堤防になっているはずだったが、草むらを抜けると知らない
村みたいな集落になっていた。
「え?」と思ってオッサンを見ると、オッサンもポカーンとしていた。
二人でその光景を眺めていると、小屋みたいな所から突然大勢の人間が
飛び出して来て、こっちに押し寄せて来る。
ボロボロの服を着て、顔は歪んで意味不明の大声を上げて怒ってる様な
雰囲気だった。
驚いたのか、オッサンの手がゆるんだので私はオッサンを押し倒して一人で
草むらに逃げ込んだ。
後ろでオッサンの悲鳴が聞こえたけど、私は草むらを走り抜けた。
草むらを出ると、元の川原だった。
誰にも言えないでいると、何日かして川原で自殺体が見つかって大騒ぎに。
死んだのは、そのオッサンみたいだった。


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